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フランス人も知らない、冬限定で販売される謎の不細工なケーキ

皆様いかがお過ごしでしょうか?ついさっき年が開けたかと思ったらあっという間にバレンタインも過ぎてしまいました。今回は今や万国共通のバレンタインについてはあえて触れず、私がつい最近発⾒した「何これ?!」と思わず⽬を疑うフランスの伝統菓⼦についてお伝えしたいと思います。

 

 

http://www.aupetitfour.fr/boulangerie-patisserie/patisserie/tailles/entremet-gateauindividuel/item/le-cochon

 

未だ知られざるフランスの謎の伝統菓子、それがこれです。

 

 

 

謎のピンクの物体、突然パン屋に出現

 

友達とお昼ご飯のサンドイッチを買いにパン屋に入った時でした。バゲットやカンパーニュ、マカロンなどのいつもの顔ぶれの間に何やら派手なピンクの物体が並べ てあります。その存在感は圧倒的なもので、私は未確認生体を発見した生物学者のようにポケットからさっとスマホを取り出し激写したのでした。後ろに並んでいたおじさんが、びっくりしている私を見て、「スペシャルだよね。」とお店の人達に聞こえないように私にこっそり言いました。つまりそのおじさんが意味するスペシャルというのはちょっとした皮肉で、独特で変という意味で、「俺は買わない。」 というニュアンスでした。

 

 

 

 

「何これ?」

 

これは「Cochon コション」=ブタと⾔う名前がつけられたケーキです。⽝かカバにも⾒えますが、ブタです。外側はマジパンと⾔う砂糖とアーモンドを粉状にして練り合わせてできた半固形状の、和菓⼦で⾔う餡のようなもので覆われています。普通のマジパンはベージュ⾊ですがこれはブタに似せるためにピンクに着⾊されてい ます。 中はチョコレートスポンジケーキです。2層のスポンジの間にバタークリームが塗ってあるものもあるそうです。 中⾝はさておき、問題はこの⾒た⽬です。⿐の⽳はいかにも指で刺して形成された様⼦が⽣々しく、⽬はあちらこちらを向いていて、⽿なんかただ三⾓形を2枚乗せれば⽿に⾒えるだろうという安易な意識が伺えます。背中に振りかけてあるココアパウダーは泥を⾒⽴てているのでしょうか。⼀番奥のブタなんかもはや豚には⾒えません。

 

 

 

各地のパン屋で目撃される

 

このブタのケーキはこのパン屋さん特有の商品なのかと思っていました。しかし、 その正に同じ⽇に、友達が別のブタのケーキの写真をインスタグラムのストーリーにあげているではないですか。

それがこの写真です。このブタも周りの美味しそうなエクレアやチョコレートタルトに⽐べると⾒た⽬はかなり劣っています。しかしもう⼀匹しか残っていないということはきっと⼈気商品なのです。これはただ事ではないと確信した私は調査を始めました。

 

 

 

「ブタ」「ケーキ」「フランス」で調査

 

フランス⼈の友達に聞いてもこのブタケーキについてちゃんと答えられる⼈がいなかったのでインターネットで検索してみました。すると、何やらブタのモチーフはドイツから伝わったものらしいのです。そこで早速ドイツ⼈の友達に聞いてみました。「こんなケーキになってるのはドイツでは⾒たことないけど、ブタは幸運をもたらすとして縁起物の年末飾りとしてよく売ってあるよ。きっとそれが由来なんじゃないかな。」とのこと。ドイツ語で Glücksschwein=グルックシュヴァイン=幸運のブタと呼ばれています。もっと歴史をさかのぼると、バイキングの時代からブタは北ヨーロッパで幸運の動物として認識されていたそうです。1800年代からフ ィギュアとして市場に出回るようになりました。

PATRIK STOLLARZ | Crédits : AFP/Getty Images

 

 

更にブタだけではなく、四つ葉のクローバー、⾺の蹄鉄、煙突掃除のおじさん、毒キノコのフィギュアも縁起の品としてお店に並ぶそうです。

https://www.oetker.de/rezepte/r/marzipan-schornsteinfeger

 

 

このようにマジパンで作られているものや陶器でできたフィギュアもあります。四 つ葉のクローバーは幸運をもたらすというのは⽇本でも知られていますが、何故ブ タや毒キノコ、煙突掃除のおじさん、⾺の蹄鉄がラッキーアイテムなのか、、。下の通りです。

 

ブタ:⼦孫繁栄や⼒、強さのシンボル。中世期、ドイツではとても寒く厳しい冬を 乗り越えるための⾷料を確保することはとても重要なことだった。ブタを飼ってい る家は幸せなことにその⾁を⾷べて冬をのりきることが出来ると⾔われたそう。

 

毒キノコ(ベニテングタケ):⾊々な説がありますが、、どの説にも共通するのが ⾚地に⽩の斑点模様はインパクトがあり美しい。そんな魅⼒的なベニテングタケを 森の中で⾒つけられたらラッキーということ。

 

煙突掃除のおじさん:その昔、電気やガスがなかった時代、釜や煙突は⽣活の重要 な役割を果たしていたため煙突掃除の仕事をする⼈も重要な存在だった。煙突掃除 のおじさん達は皆トレードマークとしてシルクハットをかぶっていたそう。

 

⾺の蹄鉄:これにも⾊々な説があり、例えば、鍛冶屋であると幸運な取引ができる とか、鉄は⽕に耐えられるので魔法の品のようにみなされていた。

 

 

 

どんな人たちがブタケーキを買うのか

 

こんなに長い歴史を持ち、こんなに目立っているというのにこのブタケーキの由来を知っている人や実際に買って食べたことがある人はとても少ないのです。立派なヨーロッパ発祥の品ですが、アジアの今年の干支がブタでそれでお店に並んでいると勘違いしている人も多数。いやいや、今年の干支は牛だし、いつもブタのケーキで毎年変わってないでしょと突っ込みたくなります。

https://images.app.goo.gl/Aem3yXEHLDMtvFzm6

 

色んな人に食べたことがあるか聞いてみても、「すっごく甘そうで気持ちが悪 い。」とか「こんなのどこに売ってあるの?」など、その存在すら知られてなかっ たりと調査は難航しました。しかし諦め始めたその時、やっと一人食べたことがあるというパリ出身の友達を見つけたのです。話によると、こちらの南フランスよりパリの方がたくさん売ってあるそうです。確かにニースだとこのブタケーキを作っているのは5軒に一軒ぐらいしかありませんでした。ドイツ由来ということで、ブ タケーキの生産率はよりドイツに近い北の地方の方が高いようです。

 

 

https://marichen.exblog.jp/13910734/

 

これは別の日本人の方がパリで見つけられたブタケーキ。さすが南フランスのぶたに比べて質が数十倍上です。それでも買ってまで食べようと思うかは難しいところです。
ブタケーキを食べたことのあるパリ出身の友達は、「この不恰好なところがまた可愛いんだよ〜。」と言っていました。味については、、子供の時以来食べていないのであまりよく覚えてはいないけどまずくはなかったと言っていました。どうもブタケーキはお子様向けのようです。きっとお父さんお母さん、又はおじいちゃんおばあちゃん達が子ども達の幸運を願って買っているのでしょう。
このブタケーキもいつかバレンタインのチョコレートやクリスマスケーキのように日本でいつか大ヒットしたりする日が来るでしょうか。
最後にフランス各地で作られた幸せのぶたケーキの”パリコレ”ならぬ”ブタコレ”をお楽しみください。

https://images.app.goo.gl/fYnbJqin5kyNtvT6A

 

https://images.app.goo.gl/2NQDZCRvpUWtZLCz9

 

https://images.app.goo.gl/H4mEJbu4hNhS93KAA

 

https://images.app.goo.gl/SJUPfWJsURAYtKxK7

 

https://images.app.goo.gl/VDUSfsXrKTFusJ638

 

https://images.app.goo.gl/Vc6x5obscaEpJmJL8

 

https://images.app.goo.gl/V8RikBxD2RumFMtcA

 

https://images.app.goo.gl/FiDPKHTc93M3eB639

 

https://images.app.goo.gl/anpudE9NQTJkqkePA

 

 

 

■参考資料

縁起物の意味について:https://onegermanamericangirl.com/2018/12/29/das-marzipanglucksschwein-and-other-new-years-good-luck-traditions/

ブタマジパンの歴史:https://jolablot.com/origin-of-the-marzipan-pig/

 

 

 

Writer

マキコ 1988 年熊本県生まれ。白川中学校を卒業後カナダへ。公立高校卒業、芸術大学卒業、キッズ アートスクールで働き、バンクーバーの雨にうんざりしたのとカナダ滞在10年を区切りに帰熊。文房具屋、発達しょうがい児支援所、味噌・醤油・酢屋、熊大の非常勤講師、クラフトビールバー、個人的に英会話を教えるなどして、色々な職業を経験。今度はヨーロッパへの好奇心が押さえられなく なり、フランスで最も太陽が照る街ニースへ。ビラ・アーソン芸術大学院に就学中。

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