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【読書の秋】フランスで読まれている⽇本⼈作家の本と100年前のポストカード

皆さまいかがお過ごしでしょうか?今年はなんとも不思議な時間の流れる年ですが秋は淡々と近づいて来ていますね。秋と⾔えば読書の秋ですね。フランスに来てみて、意外と⽇本の漫画だけではなく⼩説も結構出回っているのに気づきました。今回はフランス⼈が読んでいる⽇本⼈作家の本3冊をご紹介します。それから、広い意味での読書として、古本屋で⾒つけた約100年前の使⽤済みポストカードを読んでみたいと思います。

 

 

 

エリズ:パリ国⽴⾼等美術学校の学⽣

 

エリズが現在読んでいる本は村上龍作の「コインロッカー・ベイビーズ」(フランス語タイトル:Les bébés de la consigne automatique) です。

どうやって手に入れましたか?:楽天サイトで中古で買いました。安いので、他の本も中古であれば大体ここで買います。ヒヒッ

 

どうしてこの本?:まず、吉本ばなな作の「キッチン」を読んでとても気に入ったので、その後、他の日本の本を評価サイトで探しました。そこで見つけた村上⿓作の「限りなく透明に近いブルー」を読んでみたら、ものすごい写実法でとても上手く構成されていると思ったのですが、時おりすごく暴力的なナレーションでそれだけで十分なんじゃないかと感じました。綺麗な言葉遣いなんだけれどあまりにも生々しくて、読むのをちょっとやめていました。しかし、作者の基本的な作風を気に入ったので、彼の世界観を探索するために、一番人気のある「コインロッカー・ベイビーズ」を読んでみることにしました。

 

どんな話ですか?:この本は、真夏の日本の駅のロッカーに母親から置き去りにされ、発見された 2 人の赤ちゃんについて書かれています。彼らは孤児院に入れられ、ある夫婦によって一緒に養子としてもらわれます。それから、出生時のトラウマにつながる怪我を負った 2 人の子供の発達を追跡していく話です。

https://images.app.goo.gl/tURRRHxJjgzPvN9bA

 

面白いと思う点は?:二人の主人公が交互に登場することで複雑になっているので、解読するために探究心が掻き立てられます。心理学の面でも多くのポイントがあります。例えば、成長期の一人の子は回復傾向にあるのですが、無意識のトラウマに巻き込まれてまた説明のつかない憎しみに苦しむのです。
かろうじて生き残った子供達、この世界でどの様に生きて行くべきなのか?自分の出生の原点を知らず、時々ふと現れる残像を辿りながら、どのように成長し、どのように自身の構築をしていくのか?ということを考えさせられること。その二人の主人公を通して、違った世界、他人、物などが見えます。それはとても興味深く、例えば、一人の子がインテリアのミニチュア構造を使って、自分の存在を制御している姿を見ることができます。

 

 

 

 

ジェレミー:コミュニケーション学部を卒業して就職活動中

 

ジェレミーが今読んでいる本はアキ・シマザキ作の「忘れな草
(WASURENAGUSA)」です。岐⾩出⾝のシマザキ⽒はカナダのケベックに在住、移⺠している。フランス語で書いている。英語・⽇本語・ドイツ語などたくさんの⾔語に訳され世界中で読まれている。これまでの作品の登場⼈物は全て⽇本⼈で⽇本社会や⽇本⼈の精神を題材に書いている。

 

この本をどうやって手に入れましたか?:地域の図書館で見つけました。要らなくなった本を持って来て他の人の要らなくなった本と無料で交換することができます。ここでたまたま見つけました。

 

どうしてこの本?:丁度次に読む小説を探していたところで、この本は新しく視野を広げてくれそうだと思ったので選びました。この本の表紙に惹かれたのと、作者が日本人だということもこの本を読もうと思った理由です。(ジェレミーは日本の文化に興味があり、日本語も勉強しています。)

https://images.app.goo.gl/B6RyqcLM6eZijPn16

 

どんな話ですか?:忘れな草はアキ・シマザキの秘密の重みシリーズの中の一作でです。全ては風鈴のかすかな音から始まります。風鈴を揺らすそよ風は高橋けんじという歳をとって穏やかに暮らしている主人公の頰をなで、離れていた記憶を呼び起こし、忘れな草の草原に撒き散らすのです。この小説は音楽的要素を持って表現されています。けんじは生涯を通して幸せを探していました。彼は家のしきたりや、子孫を残すことだけを目的としたお見合い結婚と戦っていました。心に決めた一生の恋人であるマリ子をよそに他人の目のために順序に従うべきなのか、彼自身の中での葛藤もありました。

 

面白いと思う点は?:けんじがある面馬鹿馬鹿しく恐ろしい家族の秘密を見つけるところです。もう一つの偽善、もう一つの嘘、、、と全ては川の流れにそっと洗い流された忘れな草の花束で終わります。情熱の激流、猛烈な人生、禁じられた暴力がシンプルな言葉と穏やかな音楽で語られます。

 

 

 

 

列⾞の中で隣に座っていた⼥性:退職し⽥舎で⼤きな庭がある家に住んでいる

 

 

 

この⼥性は去年列⾞に乗っていた時にたまたま隣に座っていて、パリに住む孫のお世話を何⽇かして、⾃宅へ帰っているところでした。なんとなくこんな感じの⼈だったかなと思いながら上の絵の通り再現してみました。彼⼥は⼩川⽷作の「⾷堂かたつむり」(フランス語タイトル:le restaurant de l’amour retrouvé)を読んでいました。うる覚えなのですが確かこの本を選んだ理由は、やわらかい感じの⼼温まるような話が好きだからと⾔っていたと思います。

 

あらすじは、ある⽇、主⼈公が帰宅すると部屋の中がもぬけの殻で、交際中だったインド⼈の相⼿に家財道具を全て持っていかれていた、というところから始まります。しかし⾟うじて祖⺟から受け継がれたぬか床が残っていました。彼⼥はそれを持って実家に帰り⼩さなレストランを開きます。そのうちに評判が上がり、願いが叶う魔法のレストランと⾔われるようになるのです。

 

列⾞で出合った⼥性は物腰のやわらかい落ち着いた⼈だったので、このあらすじを今⾒て、彼⼥がこの本を選んだ理由が分かるような気がしました。料理をテーマにした本は例えば「深夜⾷堂」(漫画)もフランスで⼈気があります。

 

 

 

 

100年前のポストカードを読んでみる

 

これはラ・ジェテー・プロムナードという1882年から1944年までニースの海岸に建っていたカジノの写真のポストカードです。3⽉30⽇18年と書いてあるのでおそらく1918年のことで丁度世界第⼀次対戦が終わる頃に書かれた物だ
と思われます。住所も切⼿もないので封筒に⼊れて送られたのでしょう。

 

「親愛なるジョセフィンへ。こちらの駅からこんにちは。私の⼤好きな美しい国イタリアを去って来たところです。私の痛み・・・(解読不可能)。私の許可書(?)・・(解読不可能)イタリアを去らなければいけなくなったので4⽉初旬にあなたに会えないことが無念です。どうかご家族の皆様に良い⼀⽇を。よろしく。フェリックス」

これも同じカジノを逆の⽅向から写したポストカードで⽩⿊写真に着⾊してあります。

 

 

 


「(宛先)マダム コーベット ドズレ カルヴァドス 親愛なるマダムに。私の夫からあなたに新年の御多福をお祈り申し上げます。⼼から友情を込めて。クルフ ムシューアジョンス・・・(解読不可能でおそらく送り⼿の名前)」
夫が忙しいのか病気しているのか奥さんが代筆をしたようです。新年のご挨拶ですね。

 

 

 


このようにフランスでは⼀昔前の絵葉書が古本屋や蚤の市でよく売られています。この⼆枚はニースからイタリアとカルヴァドス(北仏)に送られたもので、どのようにかしてニースに戻って来たのでしょう。個⼈情報満載ですが、達筆すぎて解読不可能だったり、名字がなかったり、住所も⼤まかににしか書かれていません。ただこれだけの情報でも書いた⼈と受け取った⼈たちの状況を妄想することができます。実に⾯⽩いです。

 

 

 

まとめ
今回は3名の読者の本を覗いてみて、⽇本でもすごく有名な作家から海外での⽅が名が知られている作家まで、幅広く読まれていることが分かりました。それぞれの感想を聞いていると、作者の表現したいことが鮮明に伝わっているんだろうなと思いました。フランス語で読む⽇本の⽂化や⼈間模様はどのような感じなのか気になります。また古本屋で買ったポストカードは当時の⼈たちの様⼦が⽂字からも写真からも汲み取ることができます。みんなやっぱり⼀番⾯⽩いと思うのは作者や登場⼈物が同じ⼈間でありながらどのような視点をもちどのように⽣きているかということではないかなと思いました。

 

 

 

 

 

Writer

 

マキコ 1988 年熊本県生まれ。白川中学校を卒業後カナダへ。公立高校卒業、芸術大学卒業、キッズ アートスクールで働き、バンクーバーの雨にうんざりしたのとカナダ滞在 10 年を区切りに帰熊。文 房具屋、発達しょうがい児支援所、味噌・醤油・酢屋、熊大の非常勤講師、クラフトビールバー、個 人的に英会話を教えるなどして、色々な職業を経験。今度はヨーロッパへの好奇心が押さえられなく なり、フランスで最も太陽が照る街ニースへ。ビラ・アーソン芸術大学院に就学中。

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