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わたしたちのファッションを見つめ直す「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」

いつも着ている服装、皆さんはどんなことを考えて選びますか?

 

 

「仕事があるからスーツ」「学校があるから制服」「アクセントに〇〇を使おう」など、そのときの状況やこれからの行動で1日のファッションを決めていることでしょう。

 

 

しかし、なぜこの服を着るのか。今着ている服はわたしたちにどんな存在意義を与えてくれるのか。普段から考えることはなかなかありませんよね。

 

そんな日常のファッションについて思いを巡らせてみるきっかけを与えてくれる「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」が、熊本市中央区上通町の熊本市現代美術館で開かれました。

 

 

“ファッションやアートのほか、映画やマンガなどに描かれたファッションも視野に入れながら、現代社会における新たな〈ドレス・コード〉、わたしたちの装いの実践(ゲーム)を見つめ直す”今展覧会。

 

展覧会では、下記の全13のテーマで衣服を着用するコード(記号・規範・慣習)とは何かを問いかけてきます。

 

  1. 裸で外を歩いてはいけない︖
  2. 高貴なふるまいをしなければならない︖
  3. 組織のルールを守らなければならない︖
  4. 働かざる者、着るべからず︖
  5. 生き残りをかけて闘わなければならない︖
  6. 見極める眼を持たねばならない︖
  7. 教養は身につけなければならない︖
  8. 服は意志を持って選ばなければならない︖
  9. 他人の眼を気にしなければならない︖
  10. 大人の言うことを聞いてはいけない︖
  11. 誰もがファッショナブルである︖
  12. ファッションは終わりのないゲームである︖
  13. 与えよ、さらば与えられん︖

 

 

各テーマを出展品やその解説を手がかりに、「服を着る」という行為やファッションを通じて、人と社会の関係性を紐解きます。

 

 

アートがファッションにもたらすものとは?

 

坂本眞一/『イノサン』『イノサン Rouge ルージュ』より マリー=ジョセフ・サンソン/ 2019 年/協力:集英社 

スーツ(アビ・ア・ラ・フランセーズ)/ 1790 年頃/京都服飾文化研究財団蔵  京都国立近代美術館 展示風景  © 京都服飾文化研究財団、福永一夫撮影

 

 

会場に入って出迎えてくれるのは、18世紀のフランス宮廷服と坂本眞一さん作の漫画『イノサン』 『イノサン Rouge ルージュ』のイラスト。

 

「01. 高貴なふるまいをしなければならない︖」で飾られている洋服から2人の身分や時代、品の良さなどが伝わってきていますね。

 

漫画や演劇、ドラマ、映画、小説などの芸術作品(アート)では、服がキャラクターの性格や行動、感情を表す要素となるなど、物語を進めるための重要な役割を果たしてくれます。また、宮廷服を身に纏うことで自分の身分を一目で周囲に知らせることができるわけです。アートのなかにおける服とは、名刺の代わりになる存在なのかもしれません。

 

 

制服は自分の「属性」を示すために最適な方法

 

(出典:「ドレス・コード?」展プレスリリース(PDF形式)https://www.camk.jp/asset/images/exhibition/dress_code/pr.pdf

 

「私たちは何かを着ることで何者かになれる」。このことを如実に表しているのは、制服ではないでしょうか。

 

制服やスーツは、組織の規定を守り、自分の属性を示すために最適な方法。しかし、時代の変化とともに無個性と言われた制服のなかに個性を出すようになりました。

 

 

「02. 組織のルールを守らなければならない︖」では、社会の移り変わりを示すかのように各年代を象徴する数々のスーツがズラリ。

 

”男性のスーツや制服、シャネル・スーツなどの普遍性を備えたスタイルやアイテム、コム デ ギャルソン、ヴェトモンといった人気ブランドが手掛ける最新のスタイルまで。”

 

高貴な印象を与えるもの、スーツでも個性を出すもの、靴に個性を出すもの、黄緑などのカラフルなものなど、スーツのどこかに必ず特徴が見られました。

 

結果的に、一見無個性だと思われてしまうファッションでも時代の流れとともに、服で個人を示そうと試みている形跡が見られると言えるでしょう。

 

大量のストリートスナップから考えることとは?

 

(出典:「ドレス・コード?」展プレスリリース(PDF形式)https://www.camk.jp/asset/images/exhibition/dress_code/pr.pdf

 

 

ハンス・エイケルブーム 《フォト・ノート 1992-2019》 1992-2019 年 作家蔵

 

写真家ハンス・エイケルブームが1992年頃から25年間分、50以上の都市で撮影した《フォト・ノーツ》。

「08. 他人の眼を気にしなければならない︖」柄や色、デザインによって分けられた写真では、同じ服装やアイテムでも、一人ひとりの着こなしによって見え方が変わることを多くの写真で示しています。

 

写真のなかに写る人々は、年代、素材、性別、体型、肌の色、人種、国などさまざま。

 

平成の歌姫・安室奈美恵さんのファッションを真似た「アムラー」、黄砂やウイルスなどを防ぐための「マスク着用」、コーヒーチェーン「スターバックスコーヒー」のドリンクを片手に歩く女性、ミリタリー柄に身を包んだ男女などなど。

 

写真のなかには、ファッションとともにその国の今を生きる人々の姿、物語が記録されていました。

 

なかでも印象的だった写真は、上海で撮られたチェックの大袋を持った人のスナップ。折りたたんだマットレスが入りそうなほど大きなピンクのチェックを持ったバッグを持つ12人の男性。

若者から、ふくよかな体型の人、帰りを急ぐお父さん、爆買いをしたように見える人、自分の荷物を詰め込んでまるで何処かへ逃げるように見える人。

 

同じバッグを持っていただけなのに、人の外見や服装だけで見え方が変わってしまうのです。そして、一度「そう見えてしまった」ときから違う見え方は決してできないことをスナップで写し出していました。

 

ハンス・エイケルブームが残した25年分の写真には、その人の性格や生き様が如実に表されてしまうことを証明したように見えます。

 

「すべてが等価交換可能になった現代のファッション」

 

 

 

 

21世紀に入り、ファッションでは、ますます個が強調されるようになっていきました。それは、TwitterやインスタグラムなどのSNSの普及によるものでしょう。

 

着物、ロリータ、パンク、何もかも取り入れることがたやすくなり、「自分はこのファッションが好きだ」とアピールするためにSNSを活用する人も増え、街には時代の垣根を超えた服たちが溢れています。

 

普通から逸脱したファッションによって自分の思考や属性を表明することもあれば、コスプレのように普段とは180度違う別人格を演じることだってできる。その服を着ることによって私たちは「何者か」になることができます。

 

そして、SNSで仲間を見つけることで、自分のファッションに自信を持つことができるようになりました。ファッションは、服+αで唯一無二を生み出すことができるわけですね。

 

わたしのファッション=終わらないゲーム

(COMME des GARÇONS(川久保玲) 2018年春夏)

 

皆さんは、普段当たり前に着ている服をどう選んでいますか?

 

一見何気ないようで、歴史や思い出がたっぷり詰まっているファッション。

 

制服やスーツ、デニムやミリタリー、チェック、ロゴ付き服、18世紀のフランス宮廷服や国内外の高級ブランド服など約90点のほか、ファッション関連のアート作品が多数並んだ今回の展覧会。

 

しかし、自分が楽しんでいるだけではなく他者からどのように見られるかでも、服の存在意義は変わってきます。

 

「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」は、「わたしのファッション」へ自信が持てる展覧会でした。

 

熊本での開催は終了しましたが、東京オペラシティ アートギャラリーで4月11日(土)〜6月21日(日)まで開催されます。お時間があるかたはぜひ行かれてみてはいかがでしょうか。

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