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ARTICLEアーティストのリアルを届ける特集記事

感覚でつかんで伝えるワタシの形 カーラの羽織と陶芸作品

フランスと言えば料理やファッションなどアレンジ上手な人たちがたくさんいる国 です。私の周りにもそんなアレンジ上手さんたちがいます。今回は、日本の日常で は滅多に着られなくなった羽織を着ているフランス人カーラと彼女の陶芸展につい てご紹介いたします。

 

 

 

羽織で変身 気分も上々

 

ある日、いつも通りに作業場に来てみるとなんだか日本の空気が漂っていました。 そちらの方へ目をやると、なんと羽織を着た女性が座っているではないですか。

 


あまりの意外な光景に脳がついて行けず一瞬固まってしまいました。しかし落ち着 いてよく見ると、その女性は友達のカーラだったのです。黑と赤の絹の絞りで、な かなか渋い羽織です。しかしこうやってシンプルな洋服に合わせているとすごくか っこよく見えます。カーラは24歳で普段はもっとおちゃめでやんちゃな感じなの ですが、この時はとても大人っぽく見えました。

その夜は展示会のオープニングでガイドをするので、パリで奮発して買ったこの羽 織でおしゃれしたのだそう。「普段着には千円前後しかかけないけど、自分が本当 に気に入ったものがあったらそれにはちゃんとお金をかけるの。」とカーラ。羽織は日本では親戚から要らないかとタダで回って来たりして、貰い手を見つけるのも 苦労するぐらいの存在になってしまっていますが、こんな風に彼女が着ていると魅 力的で真似したくなります。彼女がつけているこのブローチは親友からの贈り物 で、それとこの羽織との組み合わせは彼女をダブルで良い気分にしてくれます。

 

 

 

作業にも羽織

このポーズをすると鳥とか蝶になったような、エレガントな気分になるそう。これ は安く買った羽織で作業の時にも時々着ているもの。袖が邪魔になってやりにくい 一方、ゆったりしていて動きやすいそうです。

 

これにはセミのブローチをつけている。

 

なんといっても着るだけで気分が上がるのできっとそこが一番のポイントなんでし ょう。しかしあまりウキウキしていると、「時々袖がドアノブに引っかかって危な いんだよ。」とカーラ。そりゃあそんなに大胆に動いていたら引っかかるだろうと 思うのですが、、そう言えば日本で着物が着られていた時代は引き戶ばかりでした からね。しかし、作業をするときの本当の着方を知っているマニアもちゃんと居ま した。

 


ダミアンです。彼は去年の卒業生でこのようにタスキをし、せっせと作業をしてい ました。ファッションとしても、機能性も含めて好きな人に愛用されています。

 

 

 

 

カーラの「TRANSFERT」展

現在、ヴァロリスと言う南仏で陶芸の村として一番有名な場所でカーラの個展があ っています。通りにもこんなに大きな陶器の壺が並び、花が植えてあったり、5件 に一件の間隔で陶器のお店が並んでいます。ピカソなどたくさんの作家がここで陶 芸の作品を生み出しました。

カーラは作品を通して人の弱い部分や普段表に出てこない内情を表現することを大 切にしています。特に日常の生活でよく使われる道具と人間の要素を合体すること で、親密感や、繊細さ、壊れやすさを表しています。例えばこの作品。


鉄の棒の下にひしゃげているのはくたびれたモップをイメージしています。棒に乗 せられているのはビネグリエと言って、残ったワインを入れておいて発酵させ、お 酢にする壺(フランスには昔からある伝統的な壺)をモチーフにし、どことなく人 間の肌を思わせる形にしています。実際に中にお酢が入っているので部屋に入った 瞬間ぷーんと匂いがします。この匂いは人の肌のような見た目と相まって汗の匂い を想像させます。壺の表面にお酢が内側から浸透し、黑いあざのように変色してき ています。この作品には「肉体労働」「飲酒」「疲れ」などのあまり世間的に良く は見られていない世界に注目をあてています。

これは陶器でできたバケツの底に穴が空いていてそこから水がポタッポタッと「苦 味」と書かれた壺の中に入る作品です。水がゆっくりとしたリズムを刻んでいま す。バケツをかけてある部分は力仕事をする実の父の手の石膏だそうです。この他 にも雑巾やしおれた乳のような五感にうったえるような作品が展示されています。


元気いっぱい天真爛漫に見える彼女ですが、実はつい最近まで自分の弱さや感情を 受け入れられず苦しかったんだそうです。「一般的な社会では泣いちゃいけないと か、弱みを見せることは恥や問題として認められない印象が強くて、いつも立派で ないといけない気がしていたの。」しかし弱みや悲しみは悪いことではなく、それも受け入れるように考えを変えたら、「気持ちが楽になって、頭が整理されて、自 分を好きになれるようになったの。」とカーラ。人間であれば誰もが体験したこと がある感情や感覚的要素を具現化することで人間の自然な姿を表現しています。

 

 

 

表の奥の部分

 

この小さな展示場を運営しているのはこのオリビアさん。実はその奥は彼女の作業 場になっていて、彼女も陶芸作家です。


制作過程で割れてしまったものもこのようにアクセサリーにしています。部分がか けて使われなくなった骨董品をさらに細かく砕いてまた別の形に固めた作品もあり ます。細かい破片でも色やモチーフが所々見えるので元の姿を想像することができ ます。壊れるもの、繊細なもの、しかしそれを大切にする心はオリビアさんとカー ラの共通点ではないかなと思いました。

 

 

 

美しいものは美しい

カーラの作品から「物」は人間の色々な姿を代わりに表現してくれたり、物(着る 物)を纏うことでガラリと変身して気分まで変えてくれることが分かりました。た とえそれらの物が一般的には古かったり目を向けられないものであっても、それな りの美しさがあること。それを見逃さない、美しいものは美しいと捉えられる感覚 はとても素敵で大切なことだなあと思いました。

 

カーラのインスタグラム:https://www.instagram.com/carlabar.k/
展示場 Terrail のサイト:http://terrail.fr/

 

 

 

 

Writer

 

マキコ 1988 年熊本県生まれ。白川中学校を卒業後カナダへ。公立高校卒業、芸術大学卒業、キッズ アートスクールで働き、バンクーバーの雨にうんざりしたのとカナダ滞在 10 年を区切りに帰熊。文 房具屋、発達しょうがい児支援所、味噌・醤油・酢屋、熊大の非常勤講師、クラフトビールバー、個 人的に英会話を教えるなどして、色々な職業を経験。今度はヨーロッパへの好奇心が押さえられなく なり、フランスで最も太陽が照る街ニースへ。ビラ・アーソン芸術大学院に就学中。

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