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ARTICLEアーティストのリアルを届ける特集記事

ウイルスも、アリも、⾳楽団も、共鳴し合う私たちと世界の連絡網

「よその事」では済まない「共鳴」の世界

 

今⽇もニースは晴れです。私は部屋の中で「共鳴:私たちの世界との関係につい
て」というドイツの社会学者ハルトムート・ローザと⾔う⼈が書いた本を読んでいます。正直に⾔いますと、⼆⾏に⼀⾏は分かったような分からないようなと思いながら読んでいます。元々は論⽂を書くための参考資料として⼤学の理論学の先⽣に勧められたので読み始めたのですが、この「共鳴」という⾔葉が今⽇のこの世界にものすごく重要な気がしています。そこで今回は、これをキーワードに私がニースに居て感じる世界の様⼦と⾳楽について書きたいと思います。

 

今までは「ヨーロッパのテロ事件」や「⽇本の地震」など世界中で⼤きく取り上げられる出来事があったとしても、皆んなが同じような状況に、同時に陥ることはなかったと思います。皆んなが共通した問題を抱えていることで「よその事」ではなく、いかに世界の出来事は⾃分に影響しているかということが分かります。

 

 

 

アリと刻む⽣活のリズム

 

私の⽣活も⼤きく変わりました。今⽇は⾦曜⽇だと思っていたら、なんと⼟曜⽇でした。あれ?じゃ、⾦曜⽇は何をしていたかなと記憶を辿っているうちに正午0時、⽇曜になっていました。時間の感覚が⼤分違ってきています。今までは学校や仕事、定期的なイベントや⼈との約束があり、無意識にそれを軸として時間を計っていたのだと思います。今朝はいつもよりとても遅く起きました。なぜかと⾔うと、昨⽇は夜中の3時まで私の部屋に次から次に⼊ってくるアリの流れを⽌めないといけなかったからです。

 

アリなんて今のコロナウイルスによる被害を考えるとしょうもないように思えるかもしれませんが、これはパンデミックによる⾃然界の連鎖反応の⼀部だと思うのです。衛⽣写真を⾒てもこの1ヶ⽉で⼈間の活動が減ったことで空気汚染が激減していることが明らかになりました。⼈間が動かないことで環境が変わるのです。

 

パンデミックによる空気汚染減少についての記事:
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51970847

 

前回の記事で書いた通り、私が住んでいる寮は草⽊が⽣い茂る広い庭に囲まれています。今まであった⼈の動きが急に減ったことによって餌を獲る機会が減ったり、動く範囲が広がったり、⾊々な要素が考えられますが、それが私の部屋に⼊ってくるようになった理由だと思います。私の隣の部屋の友⼈宅は気づいたときは⼿遅れで、⾜の踏み場もないぐらい床や壁までアリが這っていていました。彼は殺⾍剤を撒き何⽇か他の家に避難していました。

 

やっと春になり、アリも今のうちに⼀年分の栄養備蓄をしないといけないので必死に活動しています。シフト制なのか24時間関係なくやって来ます。私の部屋にはまだそこまでたくさん⼊ってきていなかったので殺⾍剤は撒きませんでした。元々⾍は好きですし、「共鳴」の⾔葉が頭にあるので全滅させるのではなく、ここはアリに別の⽅向に⾏ってもらう対策をとることにしました。経路を観察し、アリが嫌うシナモンパウダーやお酢、重曹などを撒き、出⼊りする壁と床の隙間を粘⼟やテープでふさいだり、アリとあらゆる⽅法を朝から晩まで何度も試しました。毎回その作業を⾏う際にしゃがんだり⽴ったりを繰り返すので、太ももが筋⾁痛になるぐらい良い運動になりました。これは私に運動をさせるためにこんな事になったんだなと思いました。そして、アリの⾏動観察から集団⽣命保持の知恵を学びました。

 


参照:https://pin.it/1zAZHhv

先⽇カナダに住む友⼈は、ロブスターが交通量が減った道路を横断しているニュースを⾒たと言っていました。アリやロブスターがこの様にいつもとは違った動きをすると⾔うことは、いたるところの⽣物がこの環境の変化に伴って違う動きを⾒せるでしょう。そして⾃然界は何でも連鎖しているので⾊々な現象があちこちで出てくると思います。

 

 

 

 

 

私たちの連絡網

 

アリ以外にもコミュニケーションを取る相⼿が変わりました。⻑い間連絡が途絶えていた友⼈とビデオ通話をしたり、ソーシャルアプリケーションを使って実際に会ったことのない⼈と話したり、学校の敷地内で⼀緒に暮らす⼈たちとは庭で離れて会話したりしています。
ひさしぶりの会話久々に連絡を取るようになった友⼈は⽇本、カナダ、アメリカ、イタリア、フランス国内の別の地域に住んでいる⼈など様々です。それぞれの国や地域の対策の違い、⼈々の反応について話が聞けるのでとてもためになります。フランスは感染が早く広がったイタリアとスペインに囲まれていて前例があるにも関わらず、対応が遅れたことで結局同じような結果になっているのでものすごく批判されています。私はイタリアに住む友⼈が早くから現地の情報を送ってくれていたので割と冷静に⽣活の変化に対応できました。そしてこれらの国々より更に対応がゆっくりなのが⽇本。⽇本出⾝の私は、⽇本に住む家族や友⼈は⼤丈夫かと、とても⼼配しています。このように皆んなが同じ状況にいることで情報を共有したり、他国と⾃国を⽐べて客観的な⾒⽅ができます。これはとても⼤切なことだと思います。政府の対応がどこでも遅れているのは明らかです。ただ指⽰を待つのではく、個⼈個⼈が⾃ら情報を得て責任ある⾏動を取ることが⼤切だと思います。

 


4 ⽉15⽇時点でのコロナウイルス拡散データ

 

 

 

庭で会話

 

私が住んでいる学校に⼀緒に居残ったメンバーもインド、シリア、イラン、オランダ、アルゼンチンなど様々な国の出⾝です。せっかく同じ敷地に住んでいるので、防疫ルールを守った上で何か⼀緒にできないかと⾔うことで約 3 ⽇に⼀度のペースで庭に出て会話をするようになりました。その会話の中でとても印象的なことがいくつかありました。チャンスがあれば⼀刻も早く⺟国に帰りたくて気持ちが焦っていると⾔うメンバーに対して、「今は感情のために動いたらたくさんのリスクがあるし、周りに迷惑がかかる事になる。感情に左右されるのではなく⽣き延びることを優先させるべきだ。」とシリア⼈の友⼈。9歳の時に戦争で死に直⾯し、たくさんの友達を失い、家族と⼀緒に国を逃れフランスに移り住んだ彼の⾔葉はものすごく⼼に響きました。経験はものを⾔います。こんな状況だからこそあらわになる部分がたくさんあります。その他にも、それぞれが取り組んでいることを話し、それについて参考資料になるようなことを返したり、違った意⾒があったり、発想の転換がありとてもためになります。

 

 

 

 

 

はじめましての会話

 

また、⾃分の枠外の⼈がどうやって過ごしているのか興味があったのでソーシャルアプリケーションを使って会話をし始めました。コンピュータープログラマー、経済学の学⽣、将来レストラン経営を計画している⼈など様々です。例えばコンピュータープログラマーの⼈は時々DJ もするので、その⼈が作ったプレイリストを送ってくれます。私は作業中にそれを聴いて、感想を返します。経済学の学⽣とは⾯⽩いと思うコメディアンやテレビ番組の共有。レストラン経営の⼈はユダヤ教なのでその習慣についてやその⽇に作った料理の写真を送ってくれます。私は例えば⽇本のラジオ体操の動画を送りました。ラジオ体操は短時間でもしっかりやればいい運動になるのでなかなか好評です。⾜が不⾃由な⼈のために座った姿勢でできる動きを⾒せる辺りも素晴らしいと⾔っていました。これらの⼈たちは顔⾒知りの友達とはまた違い、新しい形の関係で⾯⽩いです。

 

この状況で出来てきた⼈との繋がりや話す内容は貴重な財産になっています。いつかまた普通に外出することが可能になっても、ここで得たコミュニケーションの経験がこれからのものの考え⽅や⾏動に間違いなく影響していきます。

 

 

 

オンラインオーケストラ

 

「共鳴」を意識し始めると全てがそれで成り⽴っているように⾒えてきます。特に⾳楽の世界は分かりやすく象徴的です。毎朝のコート・ダジュール地⽅のニュースチェックでニースのフィルハーモニック・オーケストラ楽団が作った YouTube ビデオが⽬にとまったのでご紹介したいと思います。(フィルハーモニーとは「調和を愛する」と⾔う意味です。)

 

 

フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルの「ボレロ」を演奏しています。ボレロとはスペイン語の「ボレー」⾶ぶと⾔う⾔葉に関連していると⾔われ、軽やかに舞う踊りの舞曲を指します。指揮者はニースのオペラ座で、それぞれの演奏家は⾃宅で携帯、ビデオカメラ、パソコンなどを使って録画した映像を集結したそうです。この状況に押し負けまいと努める賛美歌で、外で⼈の命を救っている⼈たちへ感謝の気持ちを伝えるために作られました。

 

もう⼀つ、イタリアに住む友⼈が送ってくれた少年の演奏画像も紹介いたします。

 

 

場所はローマのナボロ広場というところで、イタリアの作曲家エンニオ・モリコーネ作の Deborah’s Theme という曲です。ここに住む少年が屋上から、教会の鐘を合図に周りの⼈たちに演奏しています。なんとも⾔えない⼼に触れるメロディーと最後に⾒えないけれどたくさんの⼈たちが家の中から歓声をあげたり拍⼿をしている⾳が印象的です。
離れていても⾳楽は振動としてどこまでも届きます。

 

 

 

 

⽣き延びたい

 

最近またよく 2016 年の熊本地震を思い出します。実際に⾝に降りかかって初めてわかること、⼈は周りに⽣かされて⽣きているということ、たくさんの困難の中にたくさんの学びがありました。思い返してみれば私はあの時、どうせいつか死ぬなら悔いなく⽣きたいと思ってフランス⾏きを決めたのでした。今フランスにいても熊本での経験のおかげで精神⾯でも実際の⽣活でも助かっているなと思うことがたくさんあります。現在は世界中がいつ⽌まるか分からない揺れにゆさぶられているような状態ですが、だからこそ国や⼤陸を越えた理解や協⼒ができるチャンスです。
広い視野を持って情報を取り⼊れ、世界の流れや需要などを予測していくことが⽣き残るすべになるんじゃないかと思います。

 

 

※参考資料

アルテ:独仏共同出資の番組サイト
(世界の国々の様⼦をありのままにレポートしているサイトです。⾔語が分からなくても映像を⾒るだけで様⼦が分かると思います。)

 

リスク対策記事:今、地震が起きたら避難所に行きますか? 熊本地震から 4 年、複合災害の危機を考える

 

 

 

Writer

マキコ 1988年熊本県生まれ。白川中学校を卒業後カナダへ。公立高校卒業、芸術大学卒業、キッズアートスクールで働き、バンクーバーの雨にうんざりしたのとカナダ滞在10年を区切りに帰熊。文房具屋、発達しょうがい児支援所、味噌・醤油・酢屋、熊大の非常勤講師、クラフトビールバー、個人的に英会話を教えるなどして、色々な職業を経験。今度はヨーロッパへの好奇心が押さえられなくなり、フランスで最も太陽が照る街ニースへ。ビラ・アーソン芸術大学院に就学中。

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