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“水の都”で繋がる熊本の姉妹都市エクス・アン・プロヴァンスと満員御礼の浮世絵展

この間年が明けたと思えばもうすでに 3 月。南フランスでは様々な種類の花が咲き、オレンジやレモ ンの実が至る所になっていて、すっかり春模様です。先日、熊本から休暇に来た友人と共にエクス・ アン・プロヴァンスという街に行って来ました。今回はこの旅で面白いと思った風景をお伝えしたいと思います。

 

 

 

エクス・アン・プロヴァンスってどんな街
マルセイユから北に30km ほど上がったとこに位置し、大学都市として知られています。エクス・ アン・プロヴァンスの歴史はとても⻑く紀元前から始まっています。街の建物のほとんどが⻩色がかった暖かみのある壁で、中心街の南の方にはバロック様式の建物区画が今でも残っていて、その歴史の深さを風景で感じ取れます。フランスの中でも晴天が多い街ですが、盆地なので冬は氷点下、夏は 40度以上になることもあります。また、水源が豊富にあることでも知られています。県名のエクス (Aix)はラテン語のアクア(Aquae)の水を意味する言葉が変形してエクスとなりました。盆地であること、そして水に恵まれていること、なんだか身近に感じるこの環境、実は熊本の姉妹都市なんで す。一緒に旅をした熊本からの友人は⻄村朋子さんと言う、城彩苑の企画・販売促進といった観光の お仕事をしています。お仕事の参考にということもあってエクス・アン・プロヴァンスに行こう!ということになりました。

 

 

 

賑やかな大通り

 

今から約3年前に初めて来た時は「楽しい!」と言う感覚よりも古い町並みをブラブラと歩いてノスタルジックな雰囲気に浸っていました。今回は西村さんが観光の運を分けてくれたのか、街の中心にあるミラボー通りというところで大きなマルシェが丁度あっていました。
ここで火、木、土と週に3回開かれるこのマルシェは繊維製品や骨董品の市です。普段は真ん中は車 道として使われていて、歩道の幅も広々としているのでゆっくりと商品を見ることができます。 両脇にはカフェ、レストラン、銀行、文房具屋、スーパーなどがあり、便利が良くたくさんの人で賑わっています。

こちらはモロッコ出身の男性が出している皮製品のお店で、全てモロッコで手作りされたものです。 「モロッコでは人件費や材料費が安いから、それをこちらで売ると利益が出て良いんだよ。」と言っていました。
こちらはイタリア製のスカーフを売っているお店。色とりどり、たくさんの種類の柄や生地のスカーフがあって選ぶのが楽しそうです。このように隣国の製品が並ぶのはヨーロッパならではといった感じがします。
こちらはテーブルクロスを主に売っているお店。南フランス特有の黑オリーブのモチーフや暖色の布 がたくさんあってとっても“プロヴァンス”感が出ています。
このミラボー通りの繊維製品・骨董品マルシェ以外にも他のスポットで毎日のように食材マルシェや 花マルシェが開かれています。一年の内の約300日が晴れのエクス・アン・プロヴァンス。屋外で 日常的にマルシェが開かれるのはその安定した晴天のおかげでしょう。

 

 

 

 

溢れんばかりの噴水の街

水源が数え切れないほど豊富にあるエクス・アン・プロヴァンス。その象徴に街中のあちらこちらに 大小様々な噴水があります。主な噴水だけでも10箇所以上。観光地図にもしっかりそれらの記載がされています。下の地図の水色の点がその噴水の場所を表しています。それぞれに名前とそれが作ら れた背景があります。
先ほどご紹介したマルシェが開かれているミラボー通り約500メートルの間に4つも噴水がありま す。まずは、通りの一番東に位置する噴水から。

これは 1819 年に作られた Fountaine du Roi René と言う噴水でブドウの房を手にした王という意味で す。ルネ王は 1400 年代に活躍した王様で、プロヴァンスで作られていたマスカット葡萄を持ってい ます。王様の手に葡萄の組み合わせはちょっと以外でなんだか笑ってしまいます。

これは 1734 年に作られた Fountaine d’eau chaude と言う噴水で、見ての通り“苔の生えた噴水”や“大き な緑のスポンジ”とも呼ばれています。バニエという温泉源から来る水は18度に保たれています。 丸っこい形と苔のふわふわした感じに愛嬌を感じます。

これは 1691 年に作られた Fountaine des 9 canons と言う噴水で、教会の修道女が多く利用した噴水と言われています。

これが街で一番大きな噴水で、上に立つ3つの大理石像は司法・農業・芸術を表しています。この噴水を 軸にロータリー状になっていて、たくさんの交通量と、すぐ横には観光案内所や新しく出来た屋外シ ョッピングセンターなどがあり、街の大きなシンボルです。
このように沢山の噴水がある為、噴水巡りなども楽しまれています。それぞれユニークな噴水からエ クス・アン・プロバンスの歴史や土地柄が伺えます。

 

 

 

 

噴水はお気軽憩いの場

苔の生えた噴水の写真を撮っていたら、そこで一休みしていたお爺さんが陽気に手を振ってくれました。

マルセイユの隣の町からこのマルシェにお買い物に来たそうで、「もう年寄りだからね、疲れてちょっと休憩。」このマルシェには年に2回ほど来るそうです。このマルシェが一番好きなんですかと尋ねると、はっきり、「いや、一番ではないな。他の街のマルシェはもっとディスプレーが上手なんだ。」と言っていました。ちょっと予想外な毒舌コメントにちょっとびっくりしましたが、マルシェ がたくさん存在するフランスでその奥深さを探求してみたいなと思いました。
このように噴水の淵に見知らぬ人たちが隣同士に座り、雑談をしたり、通りを歩く人たちを眺めなが らゆっくりとした時間を過ごすこの光景、なんて素敵なんでしょう。腰掛ける場所という以外にも、 水が直接一つの出口から出ている噴水には、喉を潤しに来る人もいます。
水の都と言われ、地下水が出る熊本にも同じような憩いの場があったなと気づきました。それは下通 り入り口横、パルコ前の噴水「パル玉」です。

ここは待ち合わせによく使われている、市⺠なら知らない人はいないと言っても過言ではないほど親 しまれている場所です。昔から噴水は浄化のシンボルとも言われ、人々を引き寄せる力は世界を通し て共通しているのではないかと思いました。

 

 

 

 

フランスで行列?今話題の浮世絵展 in エクス・アン・プロヴァンス

 

学術・芸術都市とも知られ様々なイベントが行われているエクス・アン・プロヴァンスで、今回特に頻繁に目に入ったのが浮世絵展のポスターでした。

南フランスでは最大級の浮世絵展ということと、私の大学の友人が展示設営に関わったとのこともあり、わざわざフランスで浮世絵?という疑問をさて置き、見に行ってみることにしました。フランスでは高めの一般入場料 14.50 ユーロ(約 1600 円)、学生割引料 11.50 ユーロ(約1300円)という 金額にも関わらず沢山の観覧者が来ていました。
建物の横の壁まで人が並んでいます。30分程並んで入ることが出来ました。

元々は 1700 年代前半に建てられたホテルで、1990年に美術館になりました。この16世紀パリ ジャンスタイルの歴史的建築の中にとっても“和”な浮世絵が展示してあるのはすごいコントラストで 面白いなと思いました。

皆さん真剣に見入ってます。北斎、広重、歌麿の作品約200点。世界的に有名なポーランド出身の コレクター、ジョルジュ・レスコヴィッチ氏のコレクションです。

大きく浮世絵と言ってもその中のテーマを部屋ごとに分けて展示したり、壁の装飾、ディスプレーの 仕方が凝っていました。例えば、歌舞伎の部門では版画だけではなく、歌舞伎俳優達の白黑写真が飾 ってあり、版画に登場する役柄一つ一つ丁寧に説明が添えてありました。

花魁の部門では花魁文化の説明が詳しく書かれ、実物の着物や化粧道具まで展示してありました。


色を使った版画方法だけではなく、版木に絵の具を使わず凹凸の模様をつける“空摺り”という技法を 使った作品もあり、こんな浮世絵もあったのかと初めて知りました。

浮世絵はテレビや本、ポストカードで何度も見たことがありますが、よく考えると現物を見たのはこ れが初めてかもしれません。フランスに来てやっと本物を見るというこの現実にちょっと違和感を感 じつつ、逆にとても貴重で珍しいものとして扱われる異国であるからこそ彼らの目を通してこのよう に詳しく知ることができるのかなと思いました。

最後の部屋は浮世絵をアニメーション化させてプロジェクションを投影してあり、観客自身が浮世絵 の中にいるようなインスタレーションでした。
浮世絵の歴史的背景の詳しい説明から展示の仕方、現代的なインスタレーションまで、とても丁寧で フランス人の関心や熱意を感じる展示でした。葛飾北斎や歌川広重の弟子でもなんでもないですが、 “一応の日本人”として自分の生まれた国の文化が他の国で愛されている様子を見てなんだかとても嬉 しい気持ちになりました。

 

 

 

誇らしい姉妹都市

 

今回はエクス・アン・プロバンスのほんの一部の様子をお伝えしました。歴史的にも現代でも文化豊 かなこの都市はたくさんの魅力が詰まっています。そんな都市と熊本の姉妹都市として繋がっていることはとても有意義で誇らしいことだと思います。熊本の狩野家が建てた能舞台で公演があったり、 市の視察団が街の仕組みを調査に来たり色々と交流がありますが、これからもお互いに良いところを共有しながら発展して行ったらいいなと思います。

 

 

 

P.S. エクス・アン・プロヴァンス駅のテラス

 

一緒に旅をした⻄村さん、さすが観光のお仕事をしているとあって目が良いところに向きます。列車 が来るまでの待ち時間をどこで過ごそうか駅内をぶらぶらしている時にこのテラスを発見しました。 2階でオープンエアーのフロアに寝そべる木のベンチが並べてあります。駅利用者にこんな素敵な空 間を提供するなんておしゃれだなぁと⻄村さん。外の駐車場の方に向かって設けてあるので、列車街 のお客さんだけでなく、他所から来てお迎えの車を待ってる人にも丁度良い休憩場所だなと思いました。

 

 

参考資料
ウィキペディア “エクス・アン・プロヴァンス”
エクス・アン・プロヴァンス観光局オフィシャルサイト
エクス・アン・プロヴァンスでのイベント情報サイト

 

 

 

Writer

マキコ 1988年熊本県生まれ。白川中学校を卒業後カナダへ。公立高校卒業、芸術大学卒業、キッズアートスクールで働き、バンクーバーの雨にうんざりしたのとカナダ滞在10年を区切りに帰熊。文房具屋、発達しょうがい児支援所、味噌・醤油・酢屋、熊大の非常勤講師、クラフトビールバー、個人的に英会話を教えるなどして、色々な職業を経験。今度はヨーロッパへの好奇心が押さえられなくなり、フランスで最も太陽が照る街ニースへ。ビラ・アーソン芸術大学院に就学中。

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