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「お久しぶり。」ニースの⼈々の⽣活をたずねる(後編)

※前編はこちらから【「お久しぶり。」ニースの⼈々の⽣活をたずねる(前編)

 

おはようございます。今回も前編に引き続き、コロナ禍の中でのニースの人たちの実際の生活や変化についてレポートいたします。今日ご紹介するのは展⽰品の運搬設営作業員兼アーティストと芸術大学卒業を間近に控えた大学院生についてお話しします。

 

 

 

普段の⽣活

 

アガタは4分の1ドイツ⼈のフランス⼈です。⻘年期はフランスとドイツを⾏ったり来たりして育ちました。芸術⼤学⼊学以来ニースには10年以上住んでいます。もちろんドイツ語とフランス語はペラペラ、⽇本語とスペイン語を勉強中です。

 

普通だったら 3 ⽉の終わりから 7 ⽉中旬までが美術館の展⽰品運搬・設営の仕事が⼀番忙しい時期です。ラ・スタションという元⾷⾁⼯場を展⽰イベント施設兼アーティストスタジオにしたところで⾃分のスペースを持ち、作品を作ったり、そこでも展⽰設営の仕事をしています。

 

 

 

 

割と充実したあれこれ

 

今思えば外出禁⽌令がニュースで流れてから実際に開始するまで 1、2⽇しかなくみんなドタバタでした。開始の数時間前、アガタも引きこもる準備をするため、急いでスタジオに⾏き本や裁縫道具を⼀式持って帰りました。
彼⼥も他の⼈達と同様に失業⾦をもらえたので、お⾦の⾯では困りませんでした。引きこもり中の運動はボクシングと筋トレ。料理はぜんざいを作ったり、ビーガンレシピを試してみたり。他には、映画やテレビ鑑賞、中でも「愛のむきだし」という⽇本の映画があまりにも⻑くて破茶滅茶で印象的だったそうです。折り紙、⽔彩画、刺繍、マスク、じんべいとそれに合わせる帽⼦も作りました。⻩⾊を選ぶところがなかなか奇抜です。

じんべいとそれに合わせる帽⼦に刺繍

 

 

 

 

⽇光と植物で時間の経過を感じる

 

ルームメイトとアパート住まいのアガタは外出禁⽌中やはり庭か広いテラスが欲しいなと思ったそうです。陽当たりのいい不在中のルームメイトの部屋を作業場にして⽇中は過ごしました。⽇光のおかげで時間の経過を感じることができました。また緑にも触れたくなったのでバルコニー菜園を始めました。植えたのはチェリートマト、ズッキーニ、バジル、コリアンダーなど。もうすでにズッキーニの花がたくさん咲き始めています。実にならない雄花は早速天ぷらにして⾷べるそうです。

ズッキーニの花の天ぷらはニースの郷⼟料理です。もしニースにいらっしゃることがあれば是⾮、「Beignets de fleurs de courgettes (指差してでも ok)シルブプレ!」で注⽂してみてください。⾷感がパリっとフワっとでおすすめです。

 

 

 

 

ハッとする瞬間

 

外出禁⽌令解除になってからアガタは真っ先に⾃分のスタジオに向かいました。しかし⾨の前に来て鍵を忘れたことに気づきました。運良く同じスタジオに通う同僚が現れました。その⼈から鍵を受け取ろうとしたところ、「いやいや、直接カギに触れることになるから俺が開けるよ。」と⾔われ、「あっそうだったまだコロナ禍の中にいるんだ。」と⼀瞬で現実に引き戻されました。スタジオに⼊って⾒るとすべてが最後に物を取りに来た時のまま。「そこだけ時間が⽌まっていた様だった。」なんとも⾔えない気持ちになったそうです。

 

 

 

 

お坊さんを⼿本に⽚付けから再スタート

 

気持ちを改め活動開始。まずは整理整頓から始めました。元々スケジュールを細かく書いたり、考えをまとめるのが好きなアガタですが、最近「お坊さんが教える⼼が整うそうじの本」(英語訳版)というのを読んで拍⾞がかかったそうです。本の始めに、「お坊さんの 1 ⽇は、掃除から始まります。. . .これは、汚れたから、散らかったからではありません。⼼のくもりを取りはらうために⾏います。. . .シンプルな暮らしと、⾃分を⾒つめる時間。その中で⼀瞬⼀瞬を丁寧に⽣きること。」と書いてあります。

 

「お坊さんが教える⼼が整うそうじの本」(英語訳版)と実際の⽚付けの様⼦

 

 

今回のパンデミックで⾒えた数々の問題点、何が本当に⼤切なのか、みんなのこれからに対する疑問など、、「たくさんの考えが頭の中にあって、そこから何が必要なのか、何を作っていこうか、、⼀つ思いついたのは、将来は⼩さなスペースを借りて、⾊々なポップアップイベントができる場所を作りたいっていうこと!でもどこから取り掛かるかはまだはっきりとは分からない。とにかく⽬的と⼿段をシンプルに決めたい。」とアガタ。6 ⽉中旬にはニースのアーティストグループ展が計画されており、まずはそこに出展する作品制作に取り掛かるそうです。こういう特別な時期にどんな作品が出てくるのか楽しみです。

 

※詳細ページ:「お坊さんが教える⼼が整うそうじの本

 

 

 

 

 

 


ネルはベルギーの自然の中で生まれ育ちました。高校からはイタリアのインターナショナルスクールへ、その後イギリスのチェルシー芸術大学で学士号を取得し、ニースの私と同じ芸術大学院に入りました。大学院は2年制でとても短いですが社交的で明るい性格の彼女はすぐに溶け込みたくさんの人とつながりができました。今年は卒業の年で普通ならば、4 月から 6 月いっぱいまで修士試験や卒業展の設営で忙しくなるところでした。

寝室の窓からご近所にこんにちは

 

外出禁止発令前に里帰りしていたネルは、ベルギーではフランスより先にコロナの騒ぎが大きくなっていたことと、イタリアの友人とのやり取りで、フランスも間も無く同じ様になることが分かっていたそうです。最初は自分のことよりもこの封鎖で生活が困難になる人たちのことがすごく心配になったそうです。「自分にできることは何だろう、みんなの調子はどうか連絡して確認しなきゃとか。でも実際に始まってみると、時間はゆっくり流れていて、すぐに心を落ち着けることができた。」とネル。

 

 

 

 

これを機にできたこと

 

「16歳から今までずーとタバコを吸ってたから、これを機にやめてみた。それから、家の中にいると自分の世界に浸りっぱなしになっちゃうから、そこから抜け出すために朝5時に起きて近所をランニングしたり。」と、自己管理に集中することできたそうです。他にも、「すごく素敵な人と知り合ったの。オンラインアプリ上では今までで一番長い恋!笑。それと一番良かったなと思うことは、家族と今までできなかった深い話ができたこと。」きっとこのような状況だからこそ出てくる話がたくさんあったのでしょう。

 

 

 

 

ルームメイトと楽しく活動

 

ネルは大きなアパートに4、5名のルームメイトと住んでいます。皆んな同じ大学の友達で気があうので退屈することはなかったみたいです。例えば、変装してダンス教室を開いたり、

自分の部屋をギャラリーにして友達と絵を展示したり。もちろん観客はルームメイト限定で。

すごく限られた展示会というのも面白いコンセプトだなと思いました。

 

 

 

 

 

ハッキリと見えない先を想像したい

 

私達の大学の再開は 9 月末の新年度です。学士号も修士号も卒業生は自動的に合格になり、10月に卒業展示が延期されることになりました。それまでの期間、ネルのように卒業生はスタジオに来て作業をすることが認められています。卒業展準備期間中は宿も無償で提供されます。

 

今は時々散歩に出かけたり海に泳ぎに行ったり、夏のバイトを探しながら、スタジオに時々来て作品を作ったり文章を書いたりしています。やはり自宅とは別の作業スペースがあることはとても大切だと改めて感じているそうです。

ネルの作業机の様子

 

 

今までは割と異次元の抽象的な世界を表現する作品作りをしていました。今回のコロナウイルスの騒動で体について注目したり観察することが多くなったので、ネルの作品も人間の体の一部や生物を想像させるような形に自然となってきました。

キャベツ、手袋、牛の頭蓋骨、ゼリーなど様々な材料を使って質感を出している

 

データバンクと言って、自然や、風景、地層、様々な物の表皮などの質感をインスピレーションに作ったデータ(もの)を収集・集約しているそうです。作りながら考えていることは、「この世で大切なものやこと、どのようにこの世界の状況をとらえるのか。」など、「これから、他の人たちとコラボレーションして、先がはっきりと見えない今だからこそ、これまでの作り上げられた世界とは別の、それぞれが思い描く世界やストーリーを描いてみようと思う。そうすることで実際に新たな発展とか道が開けるかもしれない。」素敵なアイデアです。皆さんはどんな世界を想像していらっしゃいますか。

 

 

 

これから

 

今ニースではまた⾊々なことが再稼働し始めましたが、単純に今まで通りの⽣活や仕事を続ける、とはいかないようです。前編の【「お久しぶり。」ニースの⼈々の⽣活をたずねる】に書いたトマのように職業を変えざるおえない⼈
や、猫のミミのようにすでに居場所を変えて⽣きていく覚悟を決めた者もいます。改めてアガタの整理整頓のように何が⼤事なのか、何が必要なのか、⽣きている意味など深いところから⾒つめ直し、ネルのように⾊々なことを想像しながら少しずつ⽅向転換したり微調整しながら進んで⾏っている⼈たちの様⼦がニースでは⾒られます。今回お伝えした四⼈の話からそれぞれの考え⽅や⽣きる⼒が伝わったなら良いなと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

 

 

Writer
マキコ 1988 年熊本県生まれ。白川中学校を卒業後カナダへ。公立高校卒業、芸術大学卒業、キッズアートスクールで働き、バンクーバーの雨にうんざりしたのとカナダ滞在 10 年を区切りに帰熊。文房具屋、発達しょうがい児支援所、味噌・醤油・酢屋、熊大の非常勤講師、クラフトビールバー、個人的に英会話を教えるなどして、色々な職業を経験。今度はヨーロッパへの好奇心が押さえられなくなり、フランスで最も太陽が照る街ニースへ。ビラ・アーソン芸術大学院に就学中。

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