ARTICLEアーティストのリアルを届ける特集記事
熊本で活躍するアートヒューマンに「日々のモノづくりで考えていること」「モノづくりに賭ける想い」を聞くインタビュー企画第10弾です。
「アートヒューマンとは」
モノづくりを通して、人の心を動かすクリエーターたち。アートヒューマンプロジェクトチームでは、作品はもちろん、素晴らしい作品を生み出す人自身がアートであると定義し、若手クリエーターの活動をサポートしています。
今回のインタビューは、「日々の暮らしに+することで明日が楽しくなる」をコンセプトに、独自の革アイテムを生み出しているクリエイターの「Hibi+asu」さんです。
彼が革と伝統工芸品のコラボで叶えたい、新たな伝統づくりとは?
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ーー革アイテムを作りはじめたきっかけは何ですか?
同じ大学のデザイン学科に通ってた、二個上の奥さんが卒業する時、何か自分で手作りしたものをプレゼントしたいなって思ったのがきっかけです。
そこで東急ハンズに行ったんですが、たまたま目に止まったのが革で。それで名刺入れを作ってプレゼントしました。
ーー素敵なお話ですね! 名刺入れは、どこかの教室で習いながら作ったんでしょうか。
いえ独学です。本を見て作ったわけでもないので、切って縫って叩いて……(笑)
その名刺入れが全然綺麗にできなかったことがきっかけのひとつです。それと、同じくらいの時期に大学で、新たな革製品のデザインを募集するコンペがあったんですが、革で作ったiPadケースをデザインして送ったら入選して、実際にそのものを作らないといけなくなって。それまで、そんな大きなものは作ったことがなかったから全然上手にできなくて……それで、ちゃんと勉強して綺麗に作れるようになりたいと思ったんです。
ーーそれが始まりだったんですね。それでその後、革製品をお仕事にしようと思ったのはいつ頃なんですか?
僕が大学を卒業するタイミングですね。卒業する前に、自分用に革の手帳を作ったんですよ。それが周囲で「良い」「欲しい」と評判になって、それではじめて売ってみたいと思ったんです。それからハンドメイドマーケットサイト「minne」に出品したり、イベントに出たりするようになりました。
ーー今「hibi+asu」では、どのような革アイテムを販売しているんですか?
今作ってるのは「hibino-to」。中がゴムで仕切ってあるだけの簡単な構造なんですが、このゴムへ挟み込む中身を変えるだけで、ノートになったり手帳になったりします。
ゴムが栞がわりにもなるんです。
インナーケースをつけるとお財布にもなります。
モノづくりを行うときは、「何か日常にある素材をプラスすることで、面白いものができないかな?」と考えていると、そのうちデザインが出来てくることが多いです。
「hibino-to」は、最初に革を使うデザインは大体決めてたんですが、奥さんが手首に丸ゴムをつけてるのを見た時、日常女性がよく使っている丸ゴムを組み合わせてみたら面白いかもって。
あと人気なのはコーヒースリーブ。
サイズ固定で、巻かれた状態で売られていることが多いアイテムですが、短冊状にして売ることで、ショート、トール、グランデ全て包めるようになってます。
ーーどちらも構造はいたってシンプル。そこからカスタマイズして、使い手の感性で好きに使えるのがいいですね。
シンプルなデザインにはこだわっています。単純に自分がシンプルなものが好きっていうのもありますが、シンプルなものだと、自分に馴染みがないアイテムでも、手にとって試しやすいと思うので。
僕の手の中で完成させるのではなく、使い手の感性や思い付きで使い方が変化するプロダクトを作っていきたいとも思っているんです。自分好みにカスタマイズできた方が、他にはないアイテムとして永く使い続けてもらえますしね。
ーー「hibi+asu」は、革職人なんでしょうか?
職人だと、誰か師匠や工場について学ぶ修行の過程が必要だと思うんですが、僕はデザインを考えることをメインにして、革だけにこだわらない物づくりをしていきたいと思っています。
ーー革以外には、どんなアイテムを作ってるんですか?
熊本の伝統工芸品である、い草を縄にしてカバンやバスケット、鍋敷きを作ったり、肥後象嵌(ひごぞうがん)を使ったネックレスやピアスを作家さんとコラボして作ったりしています。
※肥後象嵌とは……熊本県熊本市で作られている金工品。武家文化を反映した「重厚感」と「上品な美しさ」が特徴。刀鐔や、火縄銃の装飾品として使われていた。
ーー何故、伝統工芸品を用いた物づくりを行おうと?
4月まで熊本県の伝統工芸館で働いていたんですが、そのときに伝統工芸品を作っている作家さんたちに多く出会ったんです。
たまたま伝統工芸館で、い草が縄になった状態で売られているのを見て、これを使って何か面白いものを作りたいなと思ったのがきっかけですね。それから実際に作家さんたちと関わりはじめたり、コラボしたりするうちに、熊本の伝統工芸品には、まだまだ可能性があると感じるようになったんです。
ーー可能性ですか。
例えば伝統工芸館で働いていた時、購入していくのは、お年寄りばかりだったんですね。
きっと僕と同世代の人に、熊本の伝統工芸って何? と聞いても答えられない人の方が多いと思うんです。
例えば肥後象嵌も、女性用のアクセサリーや、ネクタイピンを作ったりしてる人はいるんですが、なかなか若者が使ってみたいと思うデザインにはなってなくて。それで、もっと用途を広げて、例えば財布の装飾や留め具に使ってあげたら、素材の重厚感が生かされていいんじゃないかなとか思っています。もっと同世代に、熊本の伝統工芸品の魅力を知ってもらうようなデザインを考えることで、伝統工芸品の用途の可能性は広がっていくんじゃないかなと。
ーーなるほど、なるほど。伝統的なものを現代にも通用するものにしていくために、今後どんな風にしていきたいとお考えですか?
僕は革の魅力のひとつはコラボのしやすさだと考えています。カバーにできたり、持ち手にできたり、伝統工芸品などの異なる素材にも、革なら自由自在に入り込めるんじゃないかと思うんです。
色々と試行錯誤して新しいプロダクトを作ることで、伝統工芸品を昔から変わらない形のままに伝承していくだけでなく、現在の暮らしに寄り添った形に変化させて新たな伝統を作り出していきたい。
革も伝統工芸品も、入り込むのが最初は難しいという点では同じだと思います。僕もたまたま素材として触ったり見たりしたら面白かったから、革から入り込んだんですけど、若い人に興味を持ってもらう良い入り口になれるような革小物や、伝統工芸品アイテムを作っていければなと思いますね。
ですから、今26才なんですが、30才代までに、そういうきっかけ作りができるセレクトショップを、これまで熊本で出会った作家さんたちと一緒に開くのが今のやりたいことですね。
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「自分の出身地の伝統工芸品はなに?」と聞かれて、すぐに答えられますか? 私は答えられません。そもそも、ほとんど関心がなかったから。
でも「hibi+asu」さんの話を聞いて、革と伝統工芸品には、どちらも永く使えば長く使うほど、シワやヒビなど使い手で異なる味が出る、経年変化が楽しめるアイテムが多いということを知り、少し伝統工芸品への興味が沸いてきました。
伝統工芸品イコール丁重に扱わなければならない高級品というイメージがありましたが、「hibi+asu」の「モノは使ってあげたほうが喜ぶと思います」という言葉に、価値観が変わる気づきをひとつ得ることもできました。これからは、伝統工芸品や古くから使われているものを見たときに、無関心に通り過ぎることなく「これってこんな風な使い方をしたら面白いかも」と考えてみたいと思います。
次に紹介するアートヒューマンはNOZOMI PIENA:TAさんです。
それではまたー!