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ARTICLEアーティストのリアルを届ける特集記事

個性を溶け合わせる夫婦のあたたかなモノづくり

熊本で活躍するアートヒューマンに「日々のモノづくりで考えていること」「モノづくりに賭ける想い」を聞くインタビュー企画第9弾です。

 

 

「アートヒューマンとは」

 

 

モノづくりを通して、人の心を動かすクリエーターたち。アートヒューマンプロジェクトチームでは、作品はもちろん、素晴らしい作品を生み出す人自身がアートであると定義し、若手クリエーターの活動をサポートしています。

 

今回のインタビュイーは、カラフルでポップな画風が「元気になる」と県内の病院や店舗から設置依頼を受けるイラスト作家の「えりなワールド」と、“一点モノの服づくり”をコンセプトとする服飾作家の「motoatom」。実は夫婦である二人に、それぞれのモノづくりへの想いはもちろん、「出会ってから、お互いの創作活動に変化があったか?」どうか探った。

 

アートヒューマンたちが接し合うことによって生まれる、新たな表現の可能性とは?

 

 

 

 

「えりなワールド」

 

 

ーー絵を描き始めたきっかけは?

 

すごくショックな出来事があって、1カ月ぐらい部屋から出られなくなった時期があったんです。もう何もする気が起きなくて、今が昼か夜かもわからないみたいな状態が続いて。でもある時、ぐっちゃぐちゃになった部屋の中に落ちていたスケッチブックが目に止まって、なんとなく落書きをしたんです。そしたら変なヒヨコが現れて、思わず自分で「なにこれ?」と笑っちゃって。それが私の描く絵のいたるところに出てくる「ありがとうヒヨコ」なんですけど。

 

 

その時「あ、私、笑えてる」とびっくりしたんですが、絵が持つ「人を元気にする力」みたいなものも同時に感じました。それからは、その「ありがとうひよこ」が出てくるストーリーを描くことで、自分の色んな感情を表現するようになっていきました。絵を描きながら少しずつ、自分の感情と会話を重ねるようになったんです。その結果、少しずつ少しずつ心が癒されていったように思います。

 

ーーカラーセラピー的な効果があったんでしょうか。はじめは暗かった絵がどんどん明るくなっていったとか……?

 

 

それが不思議と、絵は描きはじめから明るかったんです。温かい色合いで、カラフルで。そんな色にも自然と元気をもらっていったんでしょうね。

 

そんな「ありがとうひよこ」を書く、心のリハビリみたいな日々が続いた頃に、お母さんが言ってくれたんです。「せっかくだから絵をコンクールに出してみたら?」って。最初はエッて思ったんですが、何か閃くものがあって、「やってみようかな」と。そこではじめて大きな絵を描きました。同時にこんな大きな絵が自分には描けるんだってことも知って。その絵もものすごくカラフルだったんですが、きっとどこか無意識に「自分が良い方向にいけますように」って願ってたんだと思います。その絵を描いている時に、絵に対する自分の姿勢がはっきりと変わっていくのを感じました。

 

ーーどのように変わったんですか? 

 

 

ちょうどその頃に、東日本大震災が起こったんです。テレビのニュースを見ていると、人がいっぱい洪水に流されたり、家が壊されたり……たくさんの方が亡くなっています。そんな悲惨な映像を目にして「私の悩みって、なんてちっぽけなんだ」と思いました。そこから、被災者の方々のことを心に思い浮かべながら「全てが、みんなが良い方向にいけますように」という想いを込めて描くようになったというか。その想いを必死に表現しようと夢中で手を動かしているうちに、絵が完成し、なんとコンクールで奨励賞を受賞したんです。

 

ーーすごい! はじめて描いた大きな絵を、はじめて応募したのに賞ですか!

 

はい。びっくりして嬉しくて泣いてしまいました。自分が描く絵と会話しながら少しずつ前向きになり始めていた私でしたが、その絵が自分だけでなく審査員の心も動かせたということが嬉しくて。

 

 

まわりの人もすごく喜んでくれて「いい絵だね」「元気になるね」とお声をかけてくださったり……そのときに、自分の絵で人を元気にできるんだって知ったんです。もちろん描くこと自体が楽しくて好きなんですが、すごく自信を失っていたころだっただけに、自分にできることが見つかって、自信をもらえたんだと思います。熊本県内だと今、熊本整形外科さんとなごみ庵さんが、絵を飾ってくださってるんですが、そんな風に「絵を置きたい」と言ってくださった人たちを笑顔にできるような絵をこれからも描いていきたいです。

 

 

ーー今は隙間時間や週末などの、本業以外の時間に描かれていると思うんですが、今後絵で食べていきたいなどの希望はありますか?

 

それはないです。大きな絵だと完成まで2~3カ月かけるんですが、私は何よりも自分が楽しく描くことを大切にしています。これからもずっと絵を描いていきたいので、仕事にすることで、義務みたいになって、描くことが楽しくなくなったり、無理したりしたら駄目なんです。自分にとって好きなことを仕事にしたいと思う人も多いと思いますが、私が好きなことを仕事にしたくないというのは、決して大事に思ってないとかではなく、何かを大事にする仕方が違うだけなのかなと思います。

 

 

 

だから「これからの夢はなんですか?」とよく聞かれるんですが、私の夢はもう叶っています。絵が描けて、それを置きたいと言ってくれる人がいる。どん底だった時があるからこそ、今の環境全てに感謝しかないですし、引き続き「ありがとう」の気持ちを込めて、好きなことをおばあちゃんになるまで続けていく。それしかないです。

 

もし前のわたしみたいに、悲しいことがあって、もう動けないと真っ暗な闇の中にいるような気持ちの人がいるなら、伝えたいです。何かひとつでも好きなことがあれば、それを大事にしてほしい。それが絶対、自分を救ってくれると思うので。

 

 

 

ーー「前の出来事は、実はまだ引きづってたりもするんです」と、自分の弱さを隠さずに話してくれたえりなワールドさんからは、弱さを知る人ならばこその真の強さが感じられた。苦しい経験をした人だからこそ、また今も内面で戦っている人だからこそ、力強く言える「絶対に救ってくれる」という言葉が、今まさに自分の弱さにもがき苦しんでいる誰かの心に届けばいい。そして、ぜひ彼女の描くカラフルな絵を見てほしいと思う。それにしても、私の場合、自分が好きなことって何だろう? ぼんやりと考えながら、次のインタビューに移った。

 

 

 

 

「motoatom」

 

 

ーー一点モノの服作りを行うようになったきっかけはなんですか?

 

今は大量生産大量消費の時代っていわれますけど、実際にその現場に触れたのがきっかけです。大量生産の商品にはものすごくお金の匂いがするんです。売れそうな今っぽいデザインでなるべく安く作る。
洋服とかって機械で作られてるみたいに思ってる人もいるみたいですが、全部人が縫ってるんですよね。ただ多くは安い工賃で流れ作業で作ってるわけで、そんなんでいいものが作られるわけがない。そういう冷たいモノづくりは自分がやることじゃないなって思ったんです。

 

あとは単純に性格の問題です(笑)、みんなと一緒は嫌だっていう。古着文化で育ったのもあると思うんですが、常に社会の大きな流れに反して、自分だけの道に行きたくなるんです。ひねくれてるんですよ(笑)。

 

 

ーー笑 冷たいモノづくりの反語は、あたたかいモノづくりかなと思うのですが、あたたかいモノづくりイコール一点モノのモノづくりだということでしょうか?

 

あたたかいモノづくりイコール大事にしてもらえるモノづくりだと思うんですよね。そのモノ自体に詰まったディティールのこだわりに惚れて大事にするでも、大事な友だちにプレゼントされたから大事にする、でもいいんですが、そういう大事にする動機を提示することが重要なのかなと。

 

一点モノの魅力は宝探しをするみたいに出会ってもらえるということです。欲しくて欲しくて、やっと出会えたり、見つけることができたりした嬉しさを体験したら、きっと、その服のことはずっと大事にするじゃないですか。だから作った服を掲載しているインスタグラムアカウントにも、値段とか買える場所は記載してません。本当に欲しかったら連絡をいただけると思うので……僕が望むのは、ただモノを大事にしてほしいということ、それだけなんです。そのために出来ることを考えてやっています。

 

元々僕は、機能的なものが好きだったんです。形態は機能に従うみたいな。無駄を排除していくデザインですね。機能性を追求したデザインって、洗練されていてとても美しいんです。でも、そういうモノづくりを突き詰めていくと、いつか服は全て機械が作るようになるでしょう。そして大量生産になり、結局冷たいモノづくりをすることになっちゃうってことに気づいたんです。

 

それで、そっちへ向かわないためには逆を行こうと思って始めたのが、一点モノの服作りです。まっすぐすぎない、まばらな縫い目は、手作業ならではの魅力……なるべく手作業を入れて、ぬくもりのあるモノづくりをしていきたいんですよね。

 

 

だから最近はデザインも機能的だから、とかじゃなくて、「面白そう」「やってみたい」という気持ちを大事にすることで考えています。例えば、最近、袖口に大きなカフスをつけたワンピースを作ったんですが、これは街のおしゃれなおばあちゃんたちの服装に着想を得て作りました。

 

 

 

街にいるものすごく大きなバングルをはめているおばあちゃんたちが恰好良くて、それを服に落とし込みたいなって思って制作しました。ボタンをしめていれば大きなバングルに見えますが、開ければストンとしたシルエットになるんです。

 

 

 

ーー今作られてる服は、熊本県内のあるギャラリーさんにのみ飾られてるんですよね? 今はえりなワールドさんと同じく、本業以外の時間に服作りを進めているスタイルだと思いますが、やはり、本業にはしたくないのでしょうか?

 

僕は本業にしたいですね。本業にする時期は早ければ早いほどいい。好きなことに24時間全部を使いたいのが理由です。そのために、自分の時間や休みがない職場などから転職も経験しています。とにかく、自分のモノづくりをする時間が少しでも多く欲しいですね。

 

ーー本業にした場合には、自分の店を持ちたいなどありますか?

 

自分の店は欲しいですが、今の形は崩したくない。なので、店を持っても、今の一点モノは引き続きギャラリーに作品として展示していきます。そして、店頭は、もっと日常に馴染む、日々使いやすい服を作って売るセカンドラインを持ちたいと思います。

 

服を大事にする気持ちをより多くの人に伝えたいんで、服を大事にするアプローチを複数提供できればと思うんですよね。質が良い価値の高いものと、日常に溶け込んで生活の質をあげてくれるものでは、それぞれに異なる大事の仕方があるので。お客さんが得心できる方のやり方で「大事にする」ってことを知っていただけたらと思います。

 

ーー何故そんなに「モノを大事にしてほしい」と思うようになったのでしょうか? 家族がモノを大事にするタイプだったとか?

 

自分が作ったものを大事にしてほしいと思うのは当然のことだと思うんですが、例えば僕、トイストーリーとか好きなんですよ。ものに魂が宿ってるっていう、アニミズムですよね。僕みたいに、生地選びから、縫い付けまで、全部ひとりでやるのは、大変な分、想いや魂がこもった生きたモノづくりが出来ると思ってます。生き物を大事にするのって、当然のことじゃないですか。

 

冷たいモノづくりの現場を体験し、機能的なモノづくりから抜け出して、面白いや好きという気持ちを大切にした、あたたかなモノづくりを目指すようになったというatoms。彼がそのように変化したのは、えりなワールドさんに出会ったことも強く影響しているのだという。詳しく聞いた。

 

 

 

「価値観の行き来で生まれる表現」

 

 

僕がえりなワールドと出会ったのは4~5年前。僕はまだその時、機能的なモノづくりを目指していました。でも、目の前で感覚的に、ものすごく感情を込めて絵を描き進めていくえりなワールドを見て、「機能的の真逆だ」と刺激を受けました。新しい「良い」を発見するための価値観を与えられたというか。

 

自分も少し絵を描くんですが、えりなワールドと出会ってからは、絵を描くように服を作ってみたいと思うようになりました。感性で、感情を込めて作った服を。えりなの自然体な姿から刺激を受けたり考えさせられることが、僕はすごく多いんですよね。

 

ーー自分にはない能に出会ったみたいな感覚でしょうか? 実際に、それでmotoatomさんの表現がガラッと変わったのだから、すごいですよね。アートヒューマン同士が出会って刺激を受け合うことで、広がる表現の幅の可能性というか……えりなワールドさんも、motoatomさんと出会ったことで何か刺激を受けたと思うことはありますか?

 

全部ですかね。はじめて会った時から「この人は私と違うな」と思いました。わたしが考えずに描いている横で、服を作る前のパターンを作ることに何時間も時間をかけていたり、生地選びや縫い方ひとつにも考えがあったり。はじめて見るモノ作りのやり方ばかりでした。

 

わたしは画風が変わったなどの変化はないですが、motoatomが服を作っている様子を見たことで「洋服って本当に人から生まれてるんだ!」「こんなに工数も労力もかかってるんだ」ということを知り、服に興味を持つようになりました。今まではそれこそ、洋服イコール単に着るだけの消耗品で、安ければラッキーくらいに思っていたんですけど、シャツの裾を裏返して縫い目を見るとか、前は絶対しなかったことをするようになりました。服に限らず、前よりもモノを大事にするようになったと思います。

 

何より、お互いそれぞれに集中するものがあるから、自分が作品に向かう時間を無理なく作れるようになったことで、作品数が前より増えました。お互いに邪魔したり、否定したりすることはなく、受けた刺激だけ良いように吸収していけている感覚はありますね。

 

ーーすごく良い関係ですよね。今後ふたりで何か作品を作りたいなどは、あるんですか?

 

僕は店を、2人でやりたいと思っています。例えば、えりなの絵は、子どもの合羽(カッパ)とかにポイントでいれたら可愛いので、そんなコラボを子供服でできたらいい。

 

 

 

 

それぞれのこだわりを大事にしながら、あたたかみのある表現をされているお二人ですが、真逆の価値観をふたりで行き来されて表現をアップデートしていくことで、この先、より多くの人にふたりの発信が届くようになっていくのだろうと思いました。「ART HUMAN PROJECT」でも、多くのアートヒューマンたちの異なる価値観や表現が互いの刺激になることで、熊本発信の表現の幅が広がっていけばーーアートヒューマンプロジェクトの可能性の広がりが楽しみになった帰り道でした。

 

 

次にインタビューするのは、永く使える工夫が詰まった、独自の革製品を生み出すクリエイター「Hibi+asu」さんです。更新を楽しみにお待ちください。

 

それではまたー!

 

(浅田よわ美)

 

 

 

 

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