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ARTICLEアーティストのリアルを届ける特集記事

「ストーリーのある花仕事で心と心を紡ぎたい」ー花屋はな輔の須子 栄輔が“フラサポ”で飾る暮らし

 

今回のインタビュイーは、花屋はな輔の須子栄輔さん。

 

 

※【ART HUMAN FESTAとは?】

 

表現する人そのもの=アートと捉え、そのような表現者を「アートヒューマン」と呼ぶ―アートヒューマンプロジェクト―の運営チームが企画するマーケットイベント。

 

 

須子さんは「花1本1本に、ストーリーがある」と考え、花束を受け取る人や、結婚式を挙げる人など、花を贈る相手のストーリーを花で紡ぐフラワーアーティストだ。また花屋はな輔の経営者として、一般的に“花”と言えば連想されるお祝い時のギフトフラワーや装飾という固定の概念にとらわれず、日常的にもっとたくさんの人に花に触れる機会を増やし、花を好きになってほしいという想いから、男性が女性に花束をプレゼントすることを提案する「男の花贈り」や、花で家族をつなぐ「フラワー安心サポート(通称:フラサポ)」などの独自のサービスを展開している。

 

職を転々と変えてきたという須子さんが、花にハマった理由とは? そして須子さんがこれから花で叶えたい夢とは、どのようなものなのでしょうか。話を聞くべく、アトリエを訪ねました。

 

 

 

INTERVIEW FILE 04 EISUKE SUKO

 

 

 

 

触れることで花に違和感を感じてほしい。

 

 

ーー「ART HUMAN FESTA2018」では、どのようなブースを出したのか教えてください。

 

花のアレンジメントと、今人気のハーバリウムを作る、ワークショップをしました。

 

 

どっちも水をあげなくていいんで、持ち帰ったあとも、面倒なく「花がある暮らし」の良さを体感してもらえるかなと思って。花って、頭を活性化させる作用があって脳をスッキリさせてくれるんで、医療でも使われているくらなんですよ。

 

だから、時間にバタバタと追われるような生活をしている人でも、そばに花があることで、ちょっと手を止める時間が生まれて、そんな“花が生む時間”を楽しめるようになってもらえたらいいなと思います。

 

僕自身、花を触り始めてから、本当に花を好きになったので、同じように触れることをきっかけに、花を好きになったり、興味を持ってくれたりするようになると嬉しいですね。

 

 

ーー花には、触る中でこそ見えてくる魅力があるのでしょうか。

 

ええ。もちろん本当にはじめて触れた人だと、すぐに分かるってことはないでしょうけど、例えば同じ種類の白い花でも、ひとつひとつの花の咲き方は全部違うんです。だから、ブーケにするにしろ、アレンジメントで挿すにしろ、一番綺麗に見える方向は全部違います。

 

 

花1本1本に性格があって、他の花と同じように挿しているはずなのに、「あれ? 上手く挿せないな…」とかいうようなことが、花に触り始めたばかりの頃には結構あって。その様子を見た会社員時代の上司に「花に遊ばれてるね」なんて言われて、「え!? 俺遊ばれてんの!?」ってすごいムカついちゃって、それなら、絶対綺麗に挿せるようになってやるって、花に触る時間がどんどん増えていったんですよ。で、そんな風にやっているうちに、いつの間にか一本一本の花の個性が見分けられるようになって、自然に花と仲良くなれたというか……どんどんとハマっていきましたね。

 

もちろん、ワークショップ1回で、そこまで濃い体験をすることは難しいと思うんですけど、これまでなんとなく見ていた花が、近くで触ってみると、少し曲がっているとか、意外に挿すのが難しいとか、そういう「花に遊ばれる」違和感を感じてもらうことで、花に興味を持ってもらえたらと思って。だからワークショップは、ART HUMAN FESTA以外でも、熊本県内の幼稚園で子どもたちに向けて、ちょこちょこ開催しています。子どもたちから話すと親も興味を持ってくれやすいですしね。それで少しずつでも、花の魅力を知ってもらえたらなって。

 

 

人を喜ばせる仕事がしたい=イメージで花が浮かんでからは、即行動!

 

ーー小さな頃から花が好きだったんですか?

 

全然(笑)。小さな頃は料理ばっかりしてました。

 

 

母親が歌をやっていて、ほとんど日本にいなかったんで、婆ちゃんと暮らしている時間が長かったんですけど、それでよく婆ちゃんに料理を作ってたんです。婆ちゃんは脳梗塞を患っていて、自由に体とか表情筋とかが動かせる状態ではなかったんですが、ご飯を作ったときには、いつも喜んでくれて。

 

元々料理は好きだったんですが、好きなものを提供して喜んでもらうことが楽しいって知ったきっかけは、婆ちゃんでしたね。

 

そうしてるうちに、周りの友達も「須子の料理はおいしいから」って食べに来てくれるようになって、将来仕事をするとしたら、自分が好きなもので、こんな風に人を喜ばせる仕事がしたいな、だから料理人になろうって思ってました。

 

ーーそこから花屋さんを目指すことになったのは、どういうきっかけで?

 

「料理人になる」とか口では言ってたんだけど、そのための修行をしたり、面接を受けにいったりとかの行動はしなかったから、今思えば、料理は好きでも、本気の好きではなかったのかも。

 

結局自分が何をやりたいのか? っていうのが全然分かんなかったから、とりあえず声をかけられるままに、現場仕事、ペリカン便、野菜屋さんと……転々と職を変えてました。

 

転機になったのは、ある野菜屋さんに勤めたことです。正直うれしい環境じゃなくって、そこでの仕事が全然楽しくなかったんです。

ーー好きがいまいち掴めずにいた中でも、“好きじゃない”は本能的にわかったんですね。どういう環境だったんですか?

 

利益のためにボロボロの野菜を、スーパーと同じ値段で叩き売りしてこい! みたいな会社で。心にもないようなことを口に出して買わせるようなセールスでした。お客さんはレストランの料理人たちだったんですけど、毎日野菜を売った帰り道、車の中で全然人を喜ばすことのできていない自分が情けなくて、「自分がやりたいことってなんだったんだろう…?」ってすごく悲しい気持ちになってました。

 

その時期に本当に落ち込んで、抜け出したくて、人を喜ばせるために自分にできることってなんだろう? ってすごく考えて考えて考え抜いたときに……そうだ、花だ!! てなったんですよね。そこからすぐに花屋になるための修行を始めました。

 

ーーいきなり花が出てきましたね。

 

そうなんですよね(笑)。正直、それまでの人生で花との接点って特にあったわけじゃないんですよ。ただ提供した時に喜ぶもの=花ってイメージが突然頭に浮かんで、浮かんだその瞬間に即行動って感じでした。それまでも職は転々と変えてましたから、まずやってみる! ってことには抵抗がなかったんですよね。

 

ーー独立するまで、どんな風に修行をしたんですか?

 

 

花を学ぶのに外せない「葬儀」と「ブライダル」業界で、必要な技術や姿勢を学びました。

 

最初に葬儀業界に入ったんですが、何故かと言うと、葬儀の花って、日本の伝統文化なんです。棺桶の中で顔のまわりにお花を飾るというのは、欧米でもあるんですが、写真のまわりにデザイン性を持たせて何千本も花を飾るのは日本ならではの技術で、国内で花の道に進むなら、その技術を学ぶことははずせないと思いました。

 

葬儀の花の飾り付けって、電話が来るたびにスピーディな対応が求められるだけでなく、すごい力仕事なんですけど、亡くなった人を最後送るために、今までに出会った人がたくさん集まるわけです。

 

そこで見てもらうべく、送り出す人を、4000本くらいの花を使って、まるで花火があがってるかのように思いっきり華やかに飾ります。そしてみんなで送り出すんですが、その時僕は、みんなの想いが1本1本の花の中に込められているように感じられて、あー花って良いなあって思いました。

 

そのうち、葬儀業界で技術もある程度勉強できたので、次に独立に向けて、ブライダル業界で装飾を学び、そのあと運良く出会ったイベントが得意な花屋さんで販売の経験も積んだりしながら、業界を変えて色んな花に出会い、どんどん花が好きになっていって、今にいたります。

 

もともと人を喜ばせたいっていうモチベーションで仕事を探してたんですが、葬儀とか結婚式とか、その他ライフイベントに関わるお祝い事に関わる経験が増していくほどに、花と人間の密接な関係を強く実感するようになって、この仕事にのめり込んでいったのかなと思います。

 

 

フラサポで、家族内で花を贈り合う習慣を作りたい

 

 

フラサポとは?】

指定のお届け先に定期でお花の配達を行います。そして、お届けの際には、お住まいの方の安否確認や健康状態を確認し、それらの状況をレポートにして、ご依頼主様へ通知をするというサービスです。ご家族に話せないこと、他愛の無い会話の中で気づいたことをお知らせします。祖父母が遠方にお住まいの方などに、花贈りを通じて安心をお届けします。

 

ーー「フラサポ」を始めた背景があれば教えてください。

 

そもそものきっかけとなったのは、熊本に何店舗か出店している花屋さんの本店で働いていた時に、月に1回くらいのペースで、定期的に「お花を飾りたい」と連絡をくれるお婆ちゃんの家にお花を届けていたことがあったんです。

 

で、「こんにちは~」って僕が行くと、毎回、そのお婆ちゃんがすごく喜んでくれるわけですよ。持ってきたお花を「はい」って渡したら、花は玄関に置いておいて、僕と喋る(笑)。

 

その体験から、「このおばあちゃんは、花も嬉しいけど、届けに来た人間と喋る時間も嬉しいんだな」ということに気づいて。

 

その時に閃いたのが、この「フラサポ」というサービスです。

 

つまり、ご家族からの依頼で、お爺ちゃん、お婆ちゃんにお花を届けて、そこで少しお話をして、こういう話をしましたよとか、こういう様子でしたよ、と状況を報告するサポートは、そのまま仕事になるんじゃないか? と思いついたんですね。

 

僕たちが届けた花でも喜んでくれるけど、それが家族からの花だったらもっともっと嬉しいだろうな。また、それでお婆ちゃんから、送った家族にお礼の電話が行ったりすると、それまでになかったコミュニケーションが生まれて、「あ~花を送って良かったな」とあらためて思ってもらえるかもしれません。そんな風にして、家族のコミュニケーションが深まるのはもちろん、それで花の魅力を知ってもらえるようになったりしたら、本当に嬉しいじゃないですか。

 

ーー花を受け取る側は、何度かお花を届けてもらう中で、お花屋さんにお花の好みを分かってもらえたら嬉しいですよね。毎月、好みのお花が届いて部屋に飾れるなんて、とても豊かな気がします。

 

そうなんですよね。その人やその家族にとって、お抱えの花屋さんになれたら、普段の何倍も喜んでもらえる花が提供できるようになると思います。そうやって家族内で花を贈り合う習慣がいいなと思ってもらえたら、言葉で伝えきれない、花を通した人と人との優しくてあったかいコミュニケーションが生まれるんじゃないかな。

 

ーー須子さんは本当に花が好きなんですね。

 

そうですね。ずっと花に向き合ってきた中で、花って出会いだったり、人生だったり、大切なものに例えられるなと思うようになって。

 

先程、同じ種類の花でも全部形が違うという話をしましたが、ひとつの花との出会いって一期一会なわけで、その花をどう生けるか、向き合うかって、人と人との出会いに似ているわけです。その一期一会にどう向き合うか。そういう意味では僕にとって、日々の花との出会いから、人との出会いの大切さを教えてもらっているわけです。

 

また、みんな花弁のついた華やかな部分だけが“花”だと思いがちですが、そこには茎もあって、葉もあって、根もあります。この根を、僕は「なにか達成したい大きな目標」に例えられるなあと思っていて。その目標を叶えるために、少しずつ茎が伸びて、その中で、大きな目標を叶えるためのステップである小さな目標を叶えることで葉を生やし、それらを積み上げた結果、最後に美しい花=結果を咲かす。これはまさしく人生の物語そのものだなと。

 

 

だから僕は、花を贈るってことは、そういう1本1本に込められた物語を贈るということだと思ってます。例えば20本の花のブーケであれば、そこには20通りの物語や想いがあると思うんですよ。その人が10年越しの目標を叶えるために頑張ってきた期間、よく相談に乗ってたなあ、本当に良かったなあって想いの1本だったり、これからもよろしくねの1本だったり。

 

意識せずともそういう想いが自然とこもるのが花だと思ってて、そう考えるようになってから、葬儀にたくさんの花が並ぶ意味が分かるようになった気がするんです。その人の人生が本当に終わった時に、そこまでに生まれて花開いた物語が一面に、咲き乱れる。その花たちに、最後お別れを言いにきた人たちの想いが乗る。そうすると、花火があがったような、あの一番美しい瞬間を切り取ったような、息を呑む光景になるんです。

 

そういう葬儀にしろ、ギフトにしろ、花は常に物事を一番引き立てる名脇役になれる存在だと思っていて。記念日にレストランで食事をしたり、ジュエリーのプレゼントをするのも素敵だけど、そこに自分たちの物語も乗せた花をメインに添えてプレゼントしてあげたなら、花があることによって、その思い出がより輝いて見えるようになると思うんですよね。

 

 

名脇役として、見えないところでサポートし日々を飾る

 

 

ーー花や、花を贈り合うことの魅力を伝える「フラサポ」を広めるために、今特に力をいれていることはありますか?

 

注文をよく受ける「ギフトフラワー」や、「ワークショップ」です。まずは、まだまだ数少ない花に触れる機会に、みんなに「花って綺麗」「花に触れるって楽しい」と思ってもらうところからが、スタートだと思うので。

 

それで花を好きになってもらえたら、自分好みの花が届くようになる、また大事な家族に、家族好みの花が毎月送れる「フラサポ」の魅力にも、自然と気づいてもらえると思っています。

 

実際ご利用くださっている家族のケースでは、1年通して僕が婆ちゃんに花を届けてるわけですが、認知症の婆ちゃんとかでも、最初は「そんな花は頼んでません」って言われてたのが、今じゃ「はーい!」って出て来てくれて、家族からの花を渡すとものすごく喜ぶ。毎回同じ話をするわけですが、すごい喜んでくれるんです。またある夏場に、ばあちゃんが汗びっしょりで出て来たことにびっくりして、「エアコンつけてきて、お婆ちゃん」とかって僕が呼びかけて、それを家族にご報告したこともあります。

 

そういう見えないところで家族をサポートし、花でつなぐコミュニケーションが広がることも、とても嬉しいので、これからももっともっとフラサポを広げていきたいと考えています。花と同じく僕自身が、みなさんにとって、名脇役になれたらと思いますね(笑)。

 

ーー好きなことで人が喜ぶことを仕事にしたいと思っていた須子さんですが、今は花を通してまさに色んな人を喜ばせていらっしゃるわけですね。お話を聞いていて、私も何か嬉しいことがあった時には、そばにいてくれた人からお花をもらいたいとか、逆に大切な友人の晴れの日に今までの物語を込めてお花を贈りたいと思いました。花の魅力が1人でも多くの人に伝わって、今後フラサポで花を贈り合う家族が増えていくのが、とても楽しみです。今日はありがとうございましたー!

 

 

「花でストーリーを紡ぐ」須子さん自身のストーリーは、まだ始まったばかり。

 

須子さんの人生の茎が伸び、葉をつけ、大輪の花を咲かせ続けた先に、美しい唯一無二の花束ができるまでの日々をこれからも追っていきます。また今後のレポートも楽しみにお待ちください。

 

 

 

次のアートヒューマンは手刷りでプリントしたT-shirt を制作するブランド“DARGO”のディレクター成松 大輝さんです。

 

それではまたー!

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