ARTICLEアーティストのリアルを届ける特集記事
変⾝する
皆さまお元気でしょうか。熊本もフランスも、世界中どこでもまだまだ⼤変な時期が続いていますね。皆さんは⼿洗いうがい以外にも何か防疫対策をしていらっしゃいますか?私は効果があるのかないのか分からなくても、後悔しないように⾊々試してみています。やりすぎかなと思うこともあるのですが、上には上の⼈たちがいるものです。今回は体を守る装備の防疫策(世界バージョン)について書こうと思います。
フランス⼈がマスクをする
フランスに限られたことではありませんが、これまでアジア⼈以外がマスクをしているのを私は⼀度も⾒たことがありませんでした。みんながマスクをつけ始めたのは 3 ⽉中旬に外出禁⽌令が発令された後でした。元々マスクの需要が少なく、在庫もそんなにないので薬局はもちろん、ホームセンターの作業⽤のマスクも直ぐに売り切れ。優先的に必要な⼈達に数が回るようにと、最初の⽅はマスクをするよりとにかく⼈との接触を避けるようにとの指⽰でした。今でもみんながマスクをしている訳ではありませんが、ここニースでは約60%の⼈がしています。60%でも驚きの光景です。
外出禁⽌令が出て間もない時の話です。スーパーで⽸詰を選んでいたら、同じ通路の端から「ゴホッゴホッ」と聞こえたので、危険を感じパッと⾒たら、お婆さんが咳をしながらこちらへ向かって来ていました。
マスクをしているように⾒えるけど、どこか違和感があります。よく⾒てみるとアイマスクを代わりにしていました。幅が⾜りず⿐と⼝が完全に覆いきれていなくて、これはまずいと思ったので私は直ちにその場を離れました。そのお婆さんにとっても苦⾁の策だったと思うのですが、まずその発想にびっくりしたのと、マスクが⾜りていない現実を⽬の当たりにした瞬間でした。
「フランス⼈がマスクをするのは歴史上初」ではない
フランス⼈がマスクをするなんて初めての事なんじゃないかと思ったので、私の通う芸術⼤学の歴史に詳しい裁縫のエリック先⽣に聞いてみました。「⼀番最初は14世紀から15世紀のペスト(⿊死病)の時だ。」とのこと。その時使われていたマスクをインターネット上で検索して⾒せてくれました。
参照:https://www.sante-sur-le-net.com/maladies/maladies-infectieuses/peste/
これはペスト医というペスト専⾨に治療を⾏う者がしていたマスクだそうです。まだ医療科学が発展しておらず、ペストは瘴気という「悪性の空気」が感染源だと考えられていました。⿃は⾝を守る象徴としてこの嘴の形になったそうですが、この嘴の部分に空気浄化のためにハーブ類が詰められていたという事です。(例えばミント、クローブ、薔薇の花びらなど。)
参照:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Paul_F%C3%BCrst,_Der_Doctor_Schnabel_von_R
上の絵は15世紀半ばに描かれたものです。体全体は蝋を引いたガウンで覆い、つばの広い帽⼦、⼿袋、患者を直接触らずに診察するためと業種が⼀⽬でわかるように⽊の杖を携帯することが求められていたそうです。*1
ペスト以外にも世界第⼀次、第⼆次戦争でも毒ガスから⾝を守るためのいわゆるガスマスクもありました。
参照:http://www.patrimoine-militaire.fr/spip.php?article2122
エリック先⽣は、「このように今までフランスではマスクは⾃分⾃⾝の⾝を守るためにつけるもので、アジアのように⾃分の病気を他の⼈にうつさないようにするためという考えでは使⽤されていなかった。個⼈主義思考の影響だろう。」と⾔っていました。なるほど、そういう意識の違いがあるのかと思いました。しかし、今となってはどうでしょう。様々な考え⽅の⼈がいて当然ですが、周りのためにと思っている⼈たちはどのぐらいいるのでしょうか。ヨーロッパもアジアも、⾊々な国のニュースを⾒ていて疑問に思います。
「⾵の⾕のナウシカ」再ブーム
最近、Netflix というオンライン映像配信サイトでジブリの映画が観られるようになりました。⽇本アニメ⼤好きフランス⼈はこの時期丁度鑑賞するものが⾒つかったと⼤喜びで、特に「⾵の⾕のナウシカ」はまるで今の状況を表しているようだと、たくさんの⼈が観ているようです。
このマスクは瘴気マスクで、左右についているヒゲのような部分にはある種の水草から作られる活性炭が⼊っていて、そこで⼀旦空気が浄化されるようになっているそうです。
*2 このマスクはもちろん、今までの世界の歴史やデザインをモデルに描かれているんだろうと思います。
私のフランス⼈の友達はこの映画を観て、装飾品のデザインがどの地域のどの時代からきているのか興味が湧いたので調べていると⾔っていました。宮崎監督は⽇本の⼦供たちにこの繰り返される世のサイクルを⽐喩としてアニメーションで伝えていると私は思うのですが、改めて⼤⼈になった私たちや外国の⼈たちが⾒て、ストーリーの背景を追うのも⾯⽩いなと思います。
世界の防疫マスター
先⽇カナダに住む友⼈が、すごい写真がまた別の友⼈から送られてきたからと⾔って転送してくれました。明確に何処かは分かりませんが、⾊々な国の⼈たちだと思われます。
この創造性の豊かさというか、必死に⾝を守ろうとしている姿勢がすごいなと思います。効果はともかく真に伝わる危機感。この⼈たちがアベノマスクを⾒たら⼤笑いするに違いありません。
学校マスク
私も学校の裁縫室で先ほどご紹介したエリック先⽣と⼀緒に学校の寮に住んでいる友⼈とマスク作りをしています。ニースでは外出禁⽌令が解除されたら、公共交通機関に乗る時はマスク着⽤が義務付けられることになったので、とりあえず学校職員と全校⽣徒分、そして余裕があったらその他需要のあるところに提供される予定です。
⽣地は作品材料としてたまたまスタジオに残っていた布やエリック先⽣のお⺟さんが昔使っていたシーツです。端縫いミシンの⽷や紐の⾊でコーディネーションを楽しんでいます。⾊々な顔の⼤きさに対応できるようにプリーツ式で、⽿にかける部分はゴムではなく紐で⾃分で結んで調節するようになってます。
作業⼯程もなるべくシンプルに効率よくできるようによく考えらています。ザ・エリックデザインだそうです。この写真を熊本に住んでいる⺟に送ったら、裁縫が苦⼿な⼈はホッチキスでもできる簡単設計だから良いねと⾔ってまた他の友⼈に情報を拡散していました。フランスから⽇本へ意外な経路ですが、ちょっとでもプラスになる技術伝達ができて良かったなと思います。
⽣き延びる⼯夫
フランスに住んでいてまさかマスクをつける⽇が来るとは思ってもいませんでし
た。しかし時代をさかのぼってみると、その時その時の状況を表すデザインや⽤
途、思考まで⾒えてきて勉強になります。この惑星の⽣物は⼈間も含めて、変⾝したり変形しながら⼯夫をし⽣き延びてこれたんだなと、⾵に吹かれフワフワ⾶んでいく綿⽑を眺めながら思います。私もこの綿⽑のようにまた陽気に何処かへ繰り出せる⽇が来るのを夢みています。
参考資料:
*1 ペスト医について:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%82%B9%E3%83%88%E5%8C%BB%E5%B8%AB
*2 ⾵の⾕のナウシカ詳細情報:
Writer
マキコ 1988年熊本県生まれ。白川中学校を卒業後カナダへ。公立高校卒業、芸術大学卒業、キッズアートスクールで働き、バンクーバーの雨にうんざりしたのとカナダ滞在10年を区切りに帰熊。文房具屋、発達しょうがい児支援所、味噌・醤油・酢屋、熊大の非常勤講師、クラフトビールバー、個人的に英会話を教えるなどして、色々な職業を経験。今度はヨーロッパへの好奇心が押さえられなくなり、フランスで最も太陽が照る街ニースへ。ビラ・アーソン芸術大学院に就学中。