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ROTH BART BARON インタビュー 「“分断しないアルバム”を10年代の最後に作りたいと考えてたんです。」

取材・文/中村 慎

photo by pacchi

 

 

いつ終わるか知れない、どこまでも続く、ひたすら暗いけもの道。2020年という新しい年が始まっても、そこでひたすら無邪気に明るさを感じるものはそうそうはいないだろう。オリンピック? 本当にそんなものが今年この国で開催されるのだろうか。

 

だが、耳をすませば、そんなけもの道の遠くの方から静かな声と音が聴こえてくる。男性でも女性でもない、どちらも入り混じったその声は、静かで繊細だがはっきりとした意志と生命を持ち、鳴らされる音はといえば穏やかで静かな祝福と希望に満ち溢れた、いわば太古と未来を繋ぐ音。「・・・こっちに来るんだ。ほら、みんなこっちに来るんだよ」。その声と音にしっかりと耳を傾れば、彼らは音楽でそう伝えようとしているのが分かるだろう。

 

古くて新しいフォークの調べと、弾けては跳ねる太鼓とラッパの連なりは、僕らをそっちの方へと呼んでいる。そして目を瞑って、息を整えて、耳をすませば、そのけもの道の先の方にかすかな光があるのを見つけるはずだ。そんな光の導き手こそ、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)というバンドである。昨年11月に多くのひとびとの眼と耳を見開かせた『けものたちの名前』という傑作をリリースし、今年2月9日には熊本のNAVAROにてライヴを行う彼ら。フロントマンであり、ボーカル&ギターである三船雅也にじっくりと話を伺った。

 

 

 

ー 2019年のギリギリに『けものたちの名前』という新作が出たわけですけども。

 

三船:「2020年は何かが大きく変わるんじゃないか、という勝手な予感がすごくしてるんです。ポジティヴなこともたくさんあるだろうけど、ネガティヴなこともたくさん起きそうだな、という。音楽の価値観が変化して、たった今良いとされているものが評価されなくなって、また新しい価値観が生まれそうな。アメリカでは大統領選があって、東京ではオリンピックがあって。そういうピークの後、果たしてどうなってしまうのか、とか。」

 

 

ー そんな変化の前にアルバムを出しておきたかった、と。

 

三船:「そうですね。2010年代のディケイドはひとの価値観を大きく変えた10年だったなと思うんです。地震もあったし、その後は原発とかシリアスな電気の使い方の話になったりもした。そういうなかで自分がそこに相応しい音楽を、いわば来年に飛び込める勇気みたいなものを纏ったアルバムを届けたいなと思ったんです。ただ、だからといって周りのひとたちを単に「大丈夫」と無責任に励ましたくもないし、逆に絶望も叩きつけたくもない。であれば、自分のこころの奥底にある本当にいいと思うもの、自分が本当に信じられるもの、そんな純粋な価値観にどこまで潜っていけるのか、そこに集中してアルバムを創ろうと。ひたすら個人的なことに潜っていくんだけど、それが世界の裏側で同じ因子を持ったひとたちに繋がるんじゃないかって。」

 

ー まだ十代のHANAさんをはじめ、女性アーティストの歌声もたくさん聴こえてきます。

 

三船:「とにかく年齢とか性別とか人種とか、ステレオタイプな価値観みたいなものに依存したくなくて。歌が感動するくらい上手いとか、面白い音を創れる人間がたまたまアメリカに居たとか、HANAは歌が上手いんだけどたまたま13歳だった、みたいな。いろんな年齢と性別と人種を現在の縮図のように音楽に乗せれないかなと考えました。今回4人の女性ボーカルが参加してくれたんだけど、僕の声も普通よりも少し高い感じだから、もうお互いに混ぜちゃって、どっちがどっちかわかんない感じの方が今の世界、今のあるべき音楽に近いんじゃないかって。

 

 

 

というのも、この10年を振り返ると、やっぱり一言で「分断」だったなって感じていて。アメリカの大統領は壁を作り、ヨーロッパはブレグジットする、日本だったら憲法の話とか。とにかく突然にイエス・ノーの二択をネット上で突き付けられたり、白か黒かを迫られることが多くて。でも実際、ほとんどのひとたちはそのグラデーションの中にいるわけでしょう。そんな風になにかに線を引いてるひとはこの世の中で死ぬほど居るんだから、今さら僕が音楽で引く必要はないなって。そういう意味で“分断しないアルバム”を10年代の最後に作りたいと考えてたんです。」

 

 

 

ー ロットって実はメンバーはおふたりなんですが、このアルバムでもホーン隊の音が完全に血肉化していたり、ギターの岡田拓郎さん(ex.森は生きている)は第三のメンバーに近かったり、さらに圧倒的にユニークなファンコミュニティー「PALACE」がバックにあったりして、とても多面的な印象ですよね。

 

三船:「戦後の古いロック産業の感覚でいうと、バンドってなんかかっこつけなきゃいけないカルマ、幻想みたいなものがあるじゃないですか。でも本来はバンドって、バンドをやってなくてもバンド屋だよなって。ギターの岡田君とYouTubeでくだらない音楽の話をしてる時もバンドマンだと思うし、こんな風にプロモーションしてる時もバンドの一部だし、ソーシャルメディアやってるときもバンドの一部だなと思う時がある。そのグラデーションの果てが無いんですよね。PALACEのことでいうと、これまでの商売の流れだけに依存しないでバンドを転がしていけるアイデアをもっとフレキシブルに考えたときに出てきた発想でもある。例えばSpotifyやApple Musicのストリーミングが出てきて聴かれるチャンスは増えながらも、CDやレコードを発売すれば、本屋さんと同じ感覚で店頭に一、二週間展開されたらもう次のひとに移り替わってしまう。そんなこれまでのサイクルだけで自分の一生に一度の作品を出しても仕方ないな、と。」

 

ー そんなPALACEの面々と作り上げた昨年のプラネタリウムのライブも即効でソールドして。

 

三船:「例えばいまの30代半ばくらいのひとたちはお金ってそんなに大事じゃない世代になってきてると感じていて。じゃあみんなそこでなにを求めてるかと言ったら、生きがいや生きてる意味を延々と考えてるひとたちが圧倒的に多いなと。そういうなかでひとつの夜を最高に楽しいものに作り上げることだとか、これまでにまだ体験したことのない毛穴が全部開くような体験をみんなで作り上げようと。そのとっかかりみたいなものをプラネタリウムのライブで掴んだから、これを全国で少しずつやっていく環境を整えていくのもいいだろうし。」

 

 

ー 考えてみたらロックバンドがファンとそこまでコミュニケーションをとってひとつの事を成し遂げるなんてあまり無かったですし、これまであった常識なんてものを実はあっさり覆せるのかもしれない、と思わせてくれるのもロットの魅力のひとつだと思うんですよ。そこにはインディペンデントな店とかひとが学ぶべき点がいくつもある。結局自分が好きなものをしっかりと自分で選ぶ、つまり“自分の眼を持つこと”がひとつのキーワードのような気が勝手にしているんですけど。

 

三船:「音楽もそうだけどひとって誰かがいいと言ったものに縛られちゃう感じってありますよね。ひとはそもそも変わることを恐れるし、自分がいいと思うものより他人がいいといってくれたものを選ぶ方が、自分で責任取らなくていいからラクだったり。でも誰かがいいって思うものだけで自分を固めちゃうのって、他人の人生を生きてることになっちゃう気がする。自分のことよりも、他人に支配されちゃうというか。自分がいいと思うものを持って、自分の人生をドライブできてるひとはなんだか愉しいひとが多いと思うし。」

 

ー そうですよね。自分の周りを見てもロットのファンって自分を持ってるひとが多い印象があったりします。ところでロットの音楽性って『BIZARRE TV』(※毎週日曜日に更新される三船雅也と岡田拓郎によるYouTube番組)を観ても分かるようにフォークを軸にしながら、過去と現在の音楽をきちんと租借しようとしてる印象があるんですけど、その辺はいかがでしょう。

 

“BIZARRE TV”  三船と岡田『番組スタート』#1

 

 

三船:「例えば車でもiPhoneでも洋服でもなんでもいいんですけど、いざなにかを作ろうとしたとき、その仕組みを知って一回ばらしてみないと分からないと思うんですよね。それぞれの型を見てみたり、どんなパーツで動いているか調べてみたり。実はそのパーツを作ったひとの歴史や背景があることだとか。音楽でいえば、過去に作ってきたひとたちがどういうコード進行やハーモニーでやっていたのか、あるいはリズムやテンポの移り変わりだとか。そういったものを知っていくのは、自分はまったく苦じゃなかったんです。自分のペースでいろんな音楽を掘っていって、自分のマップを作っていく作業は自分の症に合っていたし。例えばカツ丼を作るんでも、ずっとカツ丼ばっかり食べてるよりか、いろんな料理を食べてから最終的にカツ丼を作った方が、もしかしたらカツ丼じゃないなにかが作れるんじゃないか、とか。なんかかわいい例えになっちゃいましたけど(笑)、結果的にまだ見ぬ音楽が作れるんじゃないかって。

 

ー すごく分かりやすい例えだと思います(笑)。

 

三船:「例えば突然この世のデータがすべて消えちゃって、Spotify等の音楽が聴けない世界になったとしたら。そこではこれまでの歴史を知ってるひとたちにみんな教えを乞うようになるんじゃないか、と思ったり。あと、ひとが作った素晴らしいものをどんどん摂取することによって、最初からなにも持ってないコンプレックスから離れて自分が少しでもマシになる気もしてて。そうすると引き出しやカタログが自分のなかに自然と増えていくから、他人となにかを創っていてもそこで対話ができる。そこで知らないといったら、もうそっからあとが続かない。その辺を共有できる人間になった方が愉しいんじゃないのかな、というのはあるかな。」

 

 

ー 今回の歌詞でとにかく個人的に刺さったのがシングルにもなった『Skiffle Song』の「自分の子どもが育てられないのなら、他人の子どもを育ててみてはいかが?」という部分で。ちょうど現在自分も実際この国で子育てをしていて、とても息苦しさを感じているし、とても響くものがあったんです。

 

三船:「その歌は7年前くらいに作った曲で。ライブではたまに歌ってたんだけど、これまで音源にしなかったんですよね。家族の再構築とか再定義みたいなことをすごく考えてた時期に書いたんだけど、考えてみたらテーマが非常に今っぽいなと。当時20代前半の自分はその辺をシリアスに考えていたんでしょうね。やっぱり家族という共同体に対しても、ステレオタイプに普通とか常識にすごく囚われちゃうというか。本当は家族でいること自体、必ずしも幸せなこととは限らないし、幸せな家庭はこうじゃなきゃいけないという作られたイメージがあったりする。それができなかったから不幸かといったら違うと思うし。本当はみんなそれぞれ違っていいはずだしね。」

 

ー 最後に2月9日のライブについて伺わせてください。

 

三船:「音源100回聴くのも大事だけど、ライブを1回観るのもぜんぜん人生観が変わると思うんですよ。そもそもライブは“生きている音楽”であって、ほんとに生ものだし、その会場によって本当に違うんです。僕らがその日にいくらいい演奏をしてもお客さんが愉しくないと良くない日だし、逆に僕らがダメな時でもお客さんが超盛り上がってていいよね、という時もある。しかもいまの世の中って、生で音楽を聴く空間なんてほとんどない。そんな世界で自分たちがなぜライブミュージックを頑なにやり続けるのかっていうと、それが“すべての始まり”だから。元々本来はレコードだってライブミュージックを録音したからこそレコード(記録)っていうんだし、最初にそうやって声を出して音を鳴らすことがすべての始まりだと思うんです。今回の『けものたちの名前』というアルバムのテーマだって実際に生で聴いてもらって、手触りや耳障りを確かめてもらうのが自分たちの音楽をやる意味だと思ってる。当日もバンドのメンバー6、7人で全部で30、40個ぐらい楽器を持ち込んで、さらにそれをコンピューターの同期なしで一から全部出していくのが僕らの強みでもあるし。やっぱりその時のパッションやその日しか聴けない演奏もあるから、何も気負わずにふらっと寄ってくれたらなと嬉しいなと思いますね。」

 

 

 

(プロフィール)

 

三船雅也 (vo/g)、中原鉄也 (dr) による東京を拠点に活動している2人組フォーク・ロック・バンド。2014年に1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』をフィラデルフィアにて制作、以降カナダ・モントリオールや英・ロンドンにてアルバムを制作。2019年11月に4th AL『けものたちの名前』を発表し、< Music Magazine >ROCK部門第3位を始め多くの音楽メディアにて賞賛を得る。またサマソニ、フジロックなど大型フェスにも出演。活動は日本国内のみならず US・ASIA にも及ぶ一方、独創的な活動内容と圧倒的なライブパフォーマンス、フォーク・ロックをルーツとした音楽性で世代を超え多くの音楽ファンを魅了している。また2018年にはロットバルトバロン・コミュニティ”PALACE”を立ち上げた。

 

(アルバム情報)

『けもののたちの名前』

NOW ON SALE CD:2750円 LP:3630円

 

(ライブ情報)

2020/2/7(金)19:30〜@福岡 The Boodoo Lounge

BEA092-712-4221(月〜金 / 11:00~18:00 第2・第4土曜日 / 11:00~15:00)

 

2020/2/8(土)18:30〜@鹿児島 SR Hall

SR Factorycaparvo@caparvo.co.jp

 

2020/2/9(日)18:00~@NAVARO

問 【蔦屋書店熊本三年坂】 TEL.096-212-9891

熊本のライブ情報詳細はこちら

 

 

 

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