須子栄輔

AHP:

聞いたところによるとお花屋さんになるまで、経歴がとても多いようで…

 

須子:

そうなんです。熊本で生まれて、桜木中を卒業し、国府高校へ入学しました。その後、自動車関係の勉強のため熊本工業専門学校へ進学しますが、中退したんですね。ここから転職が多いのですが、ラーメン屋・建材屋・野菜の卸会社は2件ほど勤めて、そのあとに花屋さんに2件勤めます。

 

AHP:

なぜそんなに転職が多いんですか?

 

須子:

長続きしないといえばそれまでですが、単純に次にやりたいことがそれだったからですね。自分の中で短いから後悔したと思ったことはあまりないです。そしたら1件目の野菜の卸会社に勤めているときに2012年の九州北部豪雨で被災しました。家も全壊になりました。濁流のように泥水が家に流れてくるなか避難しましたが、当面の間、仕事ができる状況ではなくなりました。生きていることだけで本当に幸せに感じました。

 

AHP:

なるほど。そうした状況の中で花屋への転職。難しい判断のように思えますが、きっかけは何だったのでしょうか?

 

須子:

順風満帆に結婚し、仕事も順調でしたが、転職した2件目の野菜の卸の会社内に不満がありました。そこで仕事について考えるきっかけもあって、自分の中でもっとお客様に喜んでいただける仕事はないのかと考えるようになりました。手に取って頂くお客様と直接やり取りできる職業ということもあって「これだ!」と思って、この出来事が花屋転職への挑戦のきっかけとなります。

 

 

AHP:

そうやってお花屋さんとしての第一歩がスタートしたわけですね。ここから須子さんは独立するまでにお花屋さんに2社勤めていらっしゃいます。実際にどうでしたか?勤めてみられた感想を教えてください。

 

須子:

1件目は葬儀関係のお花屋さんで、2件目にブライダル関連のお花屋さんへ転職します。まず、のちに独立をする前提で基本的な技術を学ぶためにお花屋さんへ就職しましたが、2社勤めてみて現場ごとで同じお花を扱う仕事でも業務内容は全く変わりましたね。

 

AHP:

1件目はいかがでしたか?

 

須子:

1件目は葬儀に関連したお花屋さんでしたが、そこに就職した理由は日本の文化を現場で学びたいという気持ちからでした。葬儀場での花のマナーは現場で叩き上げられないと身に付かないと思ったからです。ただ、現場はとてもハードでしたね。長時間の勤務を経験させてもらったおかげか、現場作業から1年たらずで新人の指導に回ります。1年たった後に自分の中で区切りがついてたので、次の転職を考えました。そしてブライダル関係のお花屋さんを探し、そこで見つかったのが独立直前まで勤めていた会社でした。

 

AHP:

葬儀とブライダル。二社とも同じお花を扱いますが、違いはありましたか?

 

須子:

そうですね。同じ花の取扱いでも、葬儀とブライダルではシーンが違いますから、はじめの方は慣れずに苦労しましたね。内容もハードでしたが、僕は凄く楽しかったですよ。花と向き合う時間が多くとれて本当に充実した修行期間でした。

 

AHP:

おぉ~。どういう部分が楽しかったですか?

 

須子:

やっぱり長く花と触れ合えたことが何より楽しかったですし、たくさん勉強させてもらいました。それに作業を自由にさせてもらったのも大きいですね。ブライダル関係ということで、予算の範囲内でも縛りがなく、自分が磨いてきたスキルとお客様のご要望にお応えしながら商売させてもらいました。厳しい中でも楽しく仕事ができて本当に充実していました。

 

AHP:

ところで、花業界の現状ってどんな感じですか?リアルな部分を教えてください。

 

須子:

まず、新規開業者がめちゃくちゃ少ないですよね。若い人も開業しても続かないんですよ。

 

AHP:

それはなぜでしょうか?

 

須子:

単純に需要が減ってきているからです。花に対する興味が世間的に薄れているというか…。特に若い世代はそれが顕著に表れていますね。お年寄りは昔から「文化」や「信仰」としてシチュエーションの中で花を扱うことに触れている方が多いのですが、今の若い子って花を扱う場面そのものが極端に少ないじゃないですか。そもそも無くてもイイっていうか。興味を持てる環境が少ないんです。それを踏まえると、若手の花職人が花屋を開業しても続かないし、販売店が売れないので生産者の方にも悪い影響があります。

 

AHP:

今の話を聞いただけでは業界的には悪循環というか、負のループですよね。

 

須子:

そうですね。トマトやスイカなどに代表されるように、熊本県は野菜の名産地といわれますが、以前はお花も名産地だったんですよ。それが販売店側の売れ行きが年々減ってきて、生産者も売れ行きが悪くなったところで、生産者側は都市圏をターゲットに優先的に卸を始めました。そうなると熊本県内の花の流通量も減ってくるので、芳しい状況といえる現状ではありません。

 

 

AHP:

順風満帆な修行時代、そして厳しい花業界の現状をお話を聞かせて頂きましたが、そんな中で独立しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 

須子:

昨年のアートヒューマンフェスタもきっかけのひとつですよ。会社勤めですとメシは食わせてもらえますけど、自分の時間を自分のために使うことはなかなか難しいじゃないですか。実行委員の皆さんはご存知の通り、去年、僕は会場には直接立たずにお花を添えるだけの出展でした。アートヒューマンは自分の想いを表現する場ですが、独立するという方向性で花屋としてやっている中で、朝から晩まで働くことで自分の花への想いを上手く表現することができませんでした。そしてこの花業界を見てみると、生産者も減り、若手の花職人も減っています。僕は花の魅力をお客様の他にも若くして花業界に憧れる人たちにアピールしたいんです。そう思うと次の出展は100%の力で表現し、想いを繋げたいなと思いました。

 

 

AHP:

そのように想って頂けるのは、実行委員として大変嬉しいです…。

 

須子:

業界で仕事としてやっていく上で一番大事なのは真っすぐな想いですし、それを気づかせてくれたアートヒューマンフェスタは自分の中で大きなきっかけになっています。

 

AHP:

独立へのきっかけをお聞きしたところで、須子さんはめでたくご自分のお店を開業されました。いつオープンされたんでしょうか?

 

須子:

8月7日にオープンしました。花の日です。

 

AHP:

素晴らしい!毎周年が花の日ってのは素晴らしいですね。オープンから1週間ほどたちますが、いかがですか?

 

須子:

いやぁ~、まだ厳しいですよ。商売は甘くないですね(笑)どんどん宣伝していかなくちゃいけませんね。

 

AHP:

今のお気持ちを聞いて純粋に感じたのは、「不況」と呼ばれる中でインターネットが発達して個人での宣伝・広告や情報の取得はやりやすくなりました。その代わり、敷居は低くなったものの、情報やモノが溢れすぎて周囲から見てもらうのに苦労することも多いと思います。個人的には便利さの反面、ビジネスの継続も難しい世の中になっていると感じています。須子さんはそんな環境の中、花屋としてどのように立ち向かっていきますか?

 

須子:

情報は溢れていますよね。今ってどうしてもおかねに対してのシビアさが先行して多く伝わってしまい、若い子や業界を志望している人を不安にしていると思います。それでヤル気も押しつぶされているような気がして…。僕も今はまだお客様も付いていませんし、融資金額も花業界の中でも平均額よりすごく低い金額で開業をスタートしました。でもそれにはちゃんと理由があって、おかねをかけなくてもお花屋としてスタートできることを身を持って伝えていきたいということが強いですね。

 

AHP:

実際に店舗の内装、コンパネを組み立ててご自分でDIYでされていましたもんね!

 

須子:

そうです。自分でやって、経費を削減すれば低い予算でもお店を始めることを若い子に伝えたい気持ちは人一倍強いですね。

 

AHP:

アートヒューマンとしても、そういう風に一歩踏み出せない人にむけて本気で取り組んでいるアーティストをピックアップしています。須子さんから今の若い子にむけて、何か伝えたいことはありますか?

 

須子:

純粋にやりたいことをまずチャレンジすることじゃないでしょうか。とにかく行動ありきです。そして言葉に表す。まず周りに言ってみてください。一歩ずつ有言実行していくことが、好きなことをやる上で大事だと思います。

 

AHP:

でも、その一歩を踏み出すことが大変な人にとって、どうやったらその一歩を踏み出すことができるようになりますか?

 

須子:

ボクはポジティブな性格でもあるので、自分から積極的に踏み込んでいく性格なんですけど、失敗もとても経験していますよ(笑)数多くの転職だって一例です。「やってみたい!」で踏み込んでみたけど、その時の自分の状況とフィットしなかったり、嫌な気持ちになって辞める。結局失敗はつきものなんですが、好きなことに挑戦してみてハマったときはとても楽しい。これがあるから、僕はどんどん前に進もうと思えています。なので失敗を恐れず、ダメならやめて、また好きなことに挑戦するくらいの心構えでもイイんじゃないかなって。そうやって、やりたいことに恐れず、まずやってみてきたから今の自分があると思います。そしてこんな僕を心から支えてくれた今の奥さんにはとても感謝しています。

 

 

AHP:

先ほども話にありましたが、いま、若い世代でお花を贈ることが減ってきていると思います。まず、贈り方が分からない。実は僕もその一人です。若者と花の距離感がとても遠いような現状に感じますが、いかがでしょうか

 

須子:

はい。僕も若い世代の子たちが特別な機会にお花を贈る回数がとても減っているように思えます。それはどの場面で、どのお花を、どれくらい贈ればいいのか分からないからだと思うんですね。

 

AHP:

若い世代の間で、お花を贈るということが文化から切り離されようとしている。須子さんはこの現状に何か打開策を見出していますか?

 

須子:

結婚式・お葬式・仏壇にあげるスタイルが定着は定着していますが、本当に特別な日だけしか贈らなくなりましたよね。実際に僕がやっていることをいえば、この夏だと若い世代がお仏壇にお供えものとしてお花をプレゼントをするスタイルを提案していました。仏用なので白いお花なのですが、お花の注文を頂いた方には凝ったラッピングをしてお供えをしてもらうようにご提案していました。ご年配の方には「やりずぎでは?」とのお声も頂きましたが、お仏壇に供えるといっても、ご先祖様は僕らみたいにゴハンを食べれるわけでもないですし、ケーキを食べれるわけでもない。「気持ちを贈る」という手段のひとつとして、“お子さんやお孫さんからご先祖さまへ”という意味でラッピングしたお花をお供えするという提案をさせていただきました。

 

AHP:

若手の花屋らしいアイデアで素敵ですね。そうやって若い世代に響く提案をしていくことが重要なのかなと感じましたし、花を贈ることの素晴らしさを聞くことができました。他には何かありますか?

 

須子:

具体的なプランとしては、販売価格をできる限りお求めやすい価格することを意識しています。そのために卸市場から卸してもらうだけでなく、自分で足と時間をかけて生産者さんと直接交渉し、コストを減らして、お客様に手軽に花を楽しんでいただきたいです。そうすることで、同じ金額でも他社さんよりもボリュームを持ってお渡しできる。とにかくお花を空間に添えて頂ることで、いつもとは違う雰囲気を手軽に楽しんで頂きたいです。

そして今後の動きとしては、街中のお店さんにお花をド派手に装飾したいですね。自分の趣味にもなっちゃうんですけど、いつもある風景にお花を添えることで花の魅力をより感じ取って頂ける活動をしていきたいのが一つあります。それと身障者の方にも花を楽しんでもらえるような活動をしていきたいです。例えば音楽やイラストなんかは身近な癒しのツールとして認知されていますが、お花も色どりや香りを感じることができるし、心の安らぎを感じることができます。お花は手元に1本あればアレンジができるじゃないですか。アレンジをすることで自分の気持ちを表現できるし、想いを伝える手段にもなります。そういう意味で身障者の方にもお花を楽しんで頂きたいと思っています。お花を身近に感じてもらえるような提案に挑戦していきたいですね。

 

 

AHP:

これまでのお話をお聞きして、言葉で交わせない気持ちを伝えることができる「花」が、本当に素敵なものだと感じました。そんな素敵なお花を扱う須子さんにとって『お花屋さん』とはどんなものでしょう?

 

須子:

お花屋って裏方のポジションだと思っています。でも、何も無い場所に花を一輪置くだけで雰囲気が変わるし、『贈る人』と『もらう人』がいるからドラマが始まります。そのストーリー性の中に花があることが僕もすごく嬉しいですし、同時に花屋としての本望でもあります。そうやって贈り合う人たちのドラマに一輪添えることが出来てとても嬉しいですし、これからも花を通して一つでも多くのドラマに寄り添えるように頑張っていきたいですね。

 

AHP:

最初から最後まで熱いメッセージを頂戴しました。本日は貴重なお時間を頂きありがとうございました!

 

須子:

こちらこそ!ありがとうございました!